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復活、欠食児童の栄養源 [キャラメル・エッセー]

「新潟日報」・10年後の復刻
 キャラメルエッセー
 回転ドアの向こうには-2



復活、欠食児童の栄養源

  たばこをやめて
10年になる。それまで1日4~50本を数えるヘビースモーカーだったが、国際的にも喫煙者への風向きが強くなってきたころでもあり、できることならやめたいと思っていた。
  きっかけは風邪でのどをひどく痛めたことからだった。奥が真っ赤にただれて吸えなくなった。症状がよほど悪質だったのか、医師の手当てが適切でなかったのか、結果的にいつまでたっても回復しなかった。それが逆に良かった。一週間我慢したから、半月我慢できたから、もう少しでひと月だから、と1日刻みで禁煙記録が延びていった。苦悶の1カ月が過ぎ、苫渋の半年が過ぎ、苦闘の1年が過ぎた。「意思の勝利」だった。

  タバコをやめて問題になるのが間のつなぎ方である。入門はガムあたりからだが、トローチだ、コーヒーだと手当たり次第。家の中ではビーフジャーキーなどということもあった。そのうち、駅ホームの売店でふと見かけたのが、昔のままの姿をした森永ミルクキャラメルだった。黄色のパヅケージに古いエンゼルマーク。「滋養豊富・風味絶佳」と謳った大時代なコピー。濃厚な感じの懐かしい味。さすがに外出時に携帯することはないが、以来それがたばこ代わりになって、今日も座右にある。


  戦争が始まった昭和16(1941)年前後に生まれた子供たち。それは、ごちそうや甘いおやつを知らない世代だと、よく母から聞かされた。さつま芋から作った水アメを至上のうまさと記憶している。戦後ようやく進駐軍が車の上からばらまくチョコレートの味を知ったが、日常おいしいものといえばキャラメルだった。

  グリコを筆頭に、明治クリームキャラメル、雪印バターキャラメル、フルヤウィンターキャラメル、カバヤキャラメル、とキャラメルのオンパレード。新潟ローカルでは北日本キャラメルというのもあった。グリコの「一粒300メートル」のコピー通り、キャラメルを食べていれば元気が保証される、そんな信頼感があった。この世代…つまり欠食児童のように育った世代を「キャラメル世代」と呼びたい。

  キャラメル世代の重要なポイントは、戦争をこの目で見た最後の世代であることだ。もちろん戦場に出たわけではない。家族といっしょにB29の大空襲の下を逃げ惑い、炎上する市街が赤々と天空を焦がす光景を原風景として心の深層に刻み込んでいる世代をいう。
 
 キャラメル世代の価値観は、物質的には「質より量」を重視する。味は少々落ちても料理のボリュウムに感動するのだ。欠食世代だからこれはうなずける。そのくせ精神的には「質の高さ」を尊重する。これはみじめさの裏返しだ。食うものがなくても空腹を表に出さない「武上は食わねど高楊枝」の精神である。性善説をかたくなに信じ、人を疑わない。「質実剛健」「不言実行」「以心伝心」「率先垂範」「犠牲的精神」といった、いまや死語に近い言動を美徳と思う考え方が拭いがたく根付いていたりする。
 良く言えぱ訳知りのお人良し。悪く言えば馬鹿正直。ひとことで言えば苦労人なのだ。このあたりが特に、ボランティア的要素の強い生涯学習活動などにはぴったり適合する。

  戦後52年。戦争を知る人たちが国民の半数を割ってしまった今日、平和の語り部としてそれを語り継ぐことも、生涯学習活動の大きなテーマになり得るだろう。現実にそうした活動も行われ、キャラメル世代がとてもよいリーダーシップをとっている。混とんとした世情だが、酸いも甘いも噛み分けた、いや、大甘のキャラメル世代の美学が容認される社会なら、素晴らしい人間関係が築けると思うのである。



●10年前の記事のため、現在とずれが生じるところがありますが、そのまま掲載しております。

高島屋 Caves.I 125*125
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カメキチ

私もキャラメル世代でしょうか、当時もう一つ「紅梅キャラメル」と言うのがありました。妹が中学を卒業してこの会社に入り、「紅梅キャラメル」をよくもって帰りました。私の食に関する記憶は、常に一汁一菜だったことです。それも戦後数年たってからですが・・・・その癖がいまだに取れず、数種類のおかずがあっても、一種類ずつ手をつけ、それを食べ終わらないうちは他のおかずに手を出さないという、何とも変な癖です。何時も周りの人に笑われています。
by カメキチ (2008-02-19 17:16) 

sig

カメキチさん、いつもありがとうございます。
「紅梅キャラメル」もあったらしいんですよね。らしいというのは、残念ながら食べた覚えがないのです。北陸の方にも出回っていたのでしょうか。
食事のおかずの品数は確かに少なかったですね。その代わり、醤油を掛けたり味噌で食べたりしました。特に新米、これは塩を掛けて食べるのがいちばんおいしいことはその頃から知っています。
by sig (2008-02-19 23:30) 

sig

kemmさん、こんばんは。ご来館ありがとうございました。
by sig (2008-09-14 20:35) 

sig

furukabaさん、こんばんは。ご来館ありがとうございました。
by sig (2008-09-14 20:36) 

sig

アヨアン・イゴカーさん、こんばんは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2009-03-14 23:35) 

sig

taku1_lilyさん、はじめまして。ご来館ありがとうございます。
by sig (2013-06-30 16:23) 

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