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35ミリから16ミリに進化した子供用映写機 [「動画」の自分史]

動画の自分史 5 

35ミリから16ミリに進化した子供用映写機 

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●おもちゃの35ミリ映写機。フィルムリールがプラスティックであることから、私の時代より数年後のものでしょう。この展示で掛けてあるフィルムは動画ではなくスライドです。映画用のフィルムがなかったのだと思います。

 子供の頃、教科書の隅に簡単な漫画を書いて、パラパラめくって動かして遊んだことを覚えておりますか。また、雑誌の付録についた紙製のカメラや映写機を組み立てて、実際に写真を写して現像してみたり、あるいは紙フィルムを掛けて動画を楽しんだりした経験があるのではないでしょうか。私の場合、小学校の教科書のほとんどに、パラパラ漫画を書き込んでおりました。適度な反発力を持つ紙の厚さと、きちんと揃っている裁断面がパラパラ漫画に最適でした。絵が不得意なのと、手っ取り早く動かしてみたいのとで、描いたのはもっぱら線画です。頭は丸く、手足は棒だけ。それでも1ページごとに少しずつ動きを変化させて描いていけば、見事に動いてくれました。横移動だけでは面白味が無いので、近づくと大きく、遠ざかると小さく描いて、遠近感を出すなど工夫しました。こうした知識は兄たちの書いたものを真似たり、クラスで友だちと見せ合ったり、時々付録に付くフリップブック(パラパラ漫画のこと)の絵を良く観察することで磨かれていきました。実はこのパラパラ漫画が動画の原点である訳ですが、通常は児童の一過性の遊びです。私はそれを卒業できずに今日まで来てしまったのでした。

  小学生の頃から、私がいちばん欲しかったものはおもちゃの映写機でした。前部がフィルムを通して動かす機構、後部がメッキすらされていない薄い鉄板で囲われたランプハウスで、その中に上から裸電球を吊るします。フィルムは35ミリ幅で1巻は50フィート(約15m)。昔、映画館で使用済みの時代劇映画のフィルムを活劇シーンだけを選んで切り分けたようなものでした。もちろん音声はありません。1巻の上映時間は手回しですから自由自在。早く回せばチョコマカ動き、遅く回せばスローモーション。5分くらいは楽しめたようです。雑誌の隅に映写機の広告が載っていて、上と下にフィルムリールがあるものと、上のリール(フィルム供給リール)だけのタイプがありました。当然リールが二つ付いたものの方が高価でした。見掛けも断然二つリールの方がいい訳ですが、値段を考えると、フィルム垂れ流し方式の一つリールでも仕方ないかなと考えたりしていました。

  当時は、お正月だ、子供の日だ、と言っても、子供たちがお小遣いをもらうようなことは無く、必要に応じて出してもらっていましたから、貯めたお金がある訳ではありません。それに、野球のグローブを買ってもらったばかりでした。それまでは学校の備品を使っていたのですが、いつの頃からか自分のグローブで野球をするようになったのです。友たちが先に皮製の黄色いグローブを買ってもらい、得意そうに見せてくれました。けれども私にはグローブなどはどうでもよく、仕方なく買うものでした。「みんな皮のを持ってるの?」と聞く母に「布のでいいよ」と言ってお金をもらいました。色は暗い緑。ほぼ真ん中に薄い丸い豚皮が張ってあり、ボールを受けるとバシーンと音がして手のひらが赤くなるような代物でした。そんなこともあって、子供ながらに気が引けて「映写機を買って」とは言い出しかねているうちに中学生になりました。

 数年経ったこともあって、もっと格好のいい映写機が現れたことを少年雑誌の広告で知りました。まずカタログだけでもと早速取り寄せました。写真を見ただけで、小学生時代に欲しかった35ミリ映写機とは大ちがいです。いちばん大きな違いは、使用するフィルムの規格です。35ミリではなく16ミリなのです。機体も安っぽい鉄板ではなくダイキャスト(鋳造品)で、ちゃんと上下にリールが付いています。手回しは変わりませんが、普通の電球ではなく専用の映写電球を使います。そのためランプハウスも小さく、全体がコンパクトで、本物の映写機のミニ版といった感じのすてきなスタイルです。残念ながら機種名を忘れてしまいましたが、東京の三和映材という会社が製作したものでした。フィルムは40フィート(約12m)しか掛からないのですが、1コマの画面が小さい分だけ同尺の35ミリよりコマ数はほぼ倍になり、その分長時間楽しむことができます。待ってて良かった、と思いましたが、中学生の頃は汗にまみれる農家の手伝いがいやでたまらず、逃げてばかりいたことあって、やはり「買って」とは言えませんでした。

 けれども、欲しい気持ちは募るばかりです。そこで苦肉の策として、とりあえずフィルムを1本買うことにしました。500円。少年雑誌が100円ほどの時代です。手元にある小銭を集めれば何とかなりそうです。カタログを見ると、何と、「ダンボ」で一気に大好きになったディズニーの短編アニメも並んでいます。ただし全部モノクロです。たくさんのリストの中から1本を選ぶのはとても大変でしたが、「ミッキーの猛獣狩」という作品を選んで発注しました。インターネットで申し込むと2~3日で宅配されてくる現在と違って、郵便局へ行って現金書留を使って申し込み、届くまでに10日は掛かったと思います。

  さて、フィルムは届きましたが、映写機は無いのですから動画として見ることはできません。やりたいことが出来なければ工夫するしかありません。私には、映画が動く秘密は1コマずつ変化するフィルムにあるということが分かっていましたから、映写はあきらめて、とりあえずフィルムを1コマずつ掻き落として見ることにしました。菓子箱の白い厚紙を敷き、その上にフィルムを引き出して左手で抑えると、人差し指の爪くらいの小さい画面が連続して見えます。機械でフィルムを送るための穴(パーフォレーション)にコンパスのとがった先端を入れて1コマずつ下に送る。慣れたら少し早く。すると何とか漫画が動くことを確かめることができました。私が工作少年だったら、きっと自分でフィルム送り機構を考え出し、後ろにランプハウスを付けた映写機を作り上げたのでしょうが、あいにく工作は苦手だったので、それからはもっぱらフィルム遊びにはまり込んでいくことになります。時に1955(S30)年、中学2年生でした。

  惚れ込んだら何年でも待つ。何年経っても気持ちが変わらなかったら、それは本物・・・。何か、古い時代の恋愛談義のようになってしまいましたが、欲しい映写機を「我慢すること」で、それがどれ位自分にとって大事なことなのか、本当に価値のあるものなのか、この気持ちは本物なのか、ということを見極めることが出来るのだということを学んだ気がするのです。

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●上は16ミリ手回し映写機と「ミッキーの猛獣狩」(1937製作)のフィルム。フィルムは通常の1秒24駒のものからわざわざ等間隔にコマを抜いて、手回しスピードでちょうどいい動きを得られるように短縮されています。ですから12mでも内容的にはほぼ映画の始めから終わりまで収めてある良心的なものでした。買った時からフィルムがつないであったのもご愛嬌(ミッキーの顔の右下)。

●中央は猛獣が木の枝を中心に回転するシーンの描かれ方。ひと齣ひと齣虫眼鏡で覗いて、飽きずにその変化を観察したものですが、実写と違い、不要なものが写りこんでいないアニメーションはその観察に最適でした。

●下左は「ミッキーの猛獣狩」のパッケージ。リールの直径は7cm。1巻の長さは約12m。私が実際にこの作品をトーキー/カラー映画としてWOWOWで見たのは、この時から40年程も後のことでした。

下右は通常の上映に使われる10分リールとの比較です。

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furukaba

”栴檀は双葉より芳し”
さすがはsig先生です。
そして夢を現実の世界にしての活躍は
まさに理想的ですね。感服の一語です。
by furukaba (2008-04-04 16:37) 

sig

furukabaさん、いつもご声援ありがとうございます。
恥をさらしているだけで、褒められたものではありません。
方面は違ってもみなさんそれぞれ同じようなことがあったのでは…と思います。私の場合、それがたまたま映像だったというだけのことなんですね。
by sig (2008-04-05 00:05) 

puripuri

先日はご訪問ありがとうございます。
お話しを読んでいて「そうそう、私も付録で作ったりして遊んだわ」
兄も何がしか作るのが好きで、それを見ていたり遊んだりしていました。
年も近いようで、、昔は皆こうでしたね。
by puripuri (2008-04-07 14:23) 

sig

kemmさん、いつもご来館、ありがとうございます。
sigはご覧のとおり、映画、それもメカに興味があるようなんです。
by sig (2008-04-07 19:29) 

sig

puriupuriさん、ご来館ありがとうございました。
puriupuriさんよりずっと年上ですが、お兄さんにはもう少し共通点があるかもしれませんね。
また遊びに来てください。


by sig (2008-04-07 19:44) 

sig

バズー☆ さん、こんにちは。ここでこんなこと書いてます。
by sig (2008-04-14 10:29) 

Qoo

こんにちは
物を作るって楽しいですよね
僕はアマチュア無線に一時期懲りまして、
その時ラジオとかモールスの発信器やマイクコンプレッサーなどを作って遊んでました
今は部屋が散らかるのと、半田の臭いを家族が嫌がるのでやってませんが、物作りは夢があって好きです

by Qoo (2008-06-05 16:02) 

sig

Qooさん、こんばんは。
アマチュア無線、いいですね。sigもやりたいと思ったことがありました。
機械を組み立てる、操作する、ということももちろん楽しいですが、
何と言っても、遠くの見ず知らずの人と言葉が交わせるといううれしさ。それが魅力でしたね。
それを今私たちは、ネットで手に入れた訳なんですね。
いい時代です、その意味では。
by sig (2008-06-05 19:14) 

Qoo

アマチュア無線面白いですよ
しかし、今はやってないのです
何処の世界もそうでしょうが、無法者が多くてウンザリしてしまいました
by Qoo (2008-06-05 20:57) 

sig

こんばんは、Qooさん。
確かに新しいコミュニケーションメディアが誕生すると、真っ先に悪い方に利用されたりするんですよね。
その意味ではネットもブログも、常にQooさんが感じられたようなウザッたいことが、いつ発生しないとも限りません。それに対しては正攻法しかないと思って、真摯に進めて行きたいと思っています。
by sig (2008-06-05 23:01) 

sig

森田惠子さん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2013-04-23 11:36) 

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