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子供のカメラは蛇腹のカメラ。大人のカメラは二眼レフ。 [「動画」の自分史]

動画の自分史-6

子供のカメラは蛇腹のカメラ。大人のカメラは二眼レフ。


IMGP3690-2.JPG
●「スタート35」で撮影した写真(原寸は24×24mm) 1955(S30)年頃。 
  下右は「スタート35」のイメージ
IMGP3691-2.JPG start35ジュニアS29一光社6.JPG 
  
  
気持ちの上では、動く写真、つまり「映画の仕掛け」に大きな関心を抱いていた小学生時代でしたが、ブリキ製の手回し映写機を買ってもらえないことが分かると、もっと身近なカメラ(はじめは写真機と呼んでいた)に目が移りました。1950年(S25)前後の子供向けカメラといえばその多くが蛇腹式でした。レンズ部と本体が丈夫な紙を折り畳んだ蛇腹でつながっていて、撮影時にはレンズ部を前後にスライドさせてピントを合わせる仕組みです。携帯時には蛇腹を畳むと本体にきちんと収まるようにうまく作られていました。
 
1951少年クラブ広告.JPGIMGP5789-22.JPG 
●種版に写す方式の初期の蛇腹式カメラ。ファインダーは上から覗き込みます。
 1951(S26)年「少年クラブ」の広告より。
 
 
ルム(当時はルムとは発音しなかった)はロールではなく「種板(たねばん/たねいた)」と呼びました。ケータイの2.8型画面位の大きさに切ったフイルムが1枚ずつ黒い紙の枠に入っていて、ふたで密封されています。カメラ本体の背中には摺りガラスが張ってあり、そこでピントが合ったことを確認すると、摺りガラスの前の溝に種板を差し込み、ふたを引き上げてフイルム面をカメラの中で露出させ、撮影準備OKです。シャッターを押して感光させた後は種版枠のふたを下ろして写真機から引き抜き、「現像Development」に出します。当時は写真はまだ高価なので、大抵は「引伸ばしEnlargiment」をせずに撮影したままの大きさで「焼付けPrinting」る「密着」がほとんどでした。この「現像」「焼付け」「引伸ばし」を略してDPEと呼ぶ訳です。

 それから間もなく、子供向け蛇腹式カメラも本体にロールフイルムを収め、手で巻き上げる方式に変わります。けれども蛇腹式は、プロ用大型機材は別として、更に使い勝手が良くデザインも斬新な新型カメラの出現により、急速に衰退していきます。

IMGP3651-2.JPGIMGP3644-2.JPG 
●ロールフィルム使用の蛇腹式カメラ(スプリングカメラ)は、実は戦後間もない頃から作られ、実業面で使われていました。
左「ピース」、右「ミノルタ」共に1946(S21)年製。 講談社「日録20世紀 1946」および「同・スペシャル」より

 

 
この頃、実用品としてのカメラでは「リコーフレックスⅢ型」(1950年3月発売)に代表される「二眼レフ」が全盛を極めていました。レンズが縦に二個並んでいて、上のレンズはファインダー用、下のレンズが撮影用です。レフとはレフレックス(反射鏡)の略で、上のレンズから入った光を45度に傾けた鏡でカメラ上部の摺りガラスに結像させて見る方式です。それまではファインダーで見た画面と実際に写る画面がずれるという問題(パララックス)がありました(近いほど大きくずれるので、顔や片手が切れるようなことが良くありました)が、二つのレンズを垂直の同軸上に配置したことでその問題は一応解消されました。画面サイズは6×6センチで「66版(ろくろくばん)」と呼ばれ、そのまま「密着」にしても十分なので、多方面で重宝されたようです。

IMGP3637-2.JPG
●1950年代を風靡した二眼レフカメラ「リコーフレックスⅢ」7.500円なり。
 
講談社「日録20世紀 1950」より

 
 こうした動きの中で、1950(S25)年頃に児童も簡単に楽しめるカメラということで売り出されたのが一光社による「スタート35」でした。もう蛇腹式ではなく、万年筆の素材と同じエボナイト樹脂を使った形の良い黒いボディ。直径2センチほどの単玉・固定焦点のレンズが付き、シャッタースピードはインスタント(カメラ任せで1/30秒程度)とバルブ(シャッターを押している間は開いている)の2段階。カメラの上ぶたを外してフイルムを装てんします。フイルムは35ミリの「みのりフイルム」。穴が無く、写る画面は24ミリほどの真四角で、これはボルタ版と呼ばれました。フイルムスプールには等間隔に数字が印刷された裏紙がフイルムといっしょに巻かれていて、その数字をカメラの裏窓で確認しながら1枚ずつ巻き上げるという仕組みです。フイルムの装てんも撮影もとても簡単で、しかも良く映るというので、子供たちの間で大人気でした。

 
 その「スタート35」を中学校入学のお祝いか何かで買ってもらったらしいのです。もちろん頼んだから買ってもらえたはずなのですが、らしいという記憶は、この当時自分が本当に欲しいと思っていたのはオモチャの16ミリ映写機だったからで、うれしさも中くらいなり、といったものだったからかもしれません。いずれにせよ、子供にとってはフイルムも高価なので、やたらに撮るような無駄はできません。中学生で写真撮影といえば学校行事くらいしかなく、手元の古いアルバムには、中学生の制服を着て母校の小学校校庭で写したものや、春の遠足、夏の臨海学校などの写真が「密着」の小さい印画紙のまま、多少黄ばんで残っています。

IMGP3686-2.JPGIMGP3688-2.JPGIMGP3689-2.JPG
●自宅前の野菜畑     ミーちゃん       中学校、体育館の入口
 ネガはありませんので、いずれもアルバムからデジカメで接写したものです。

 当時の写真好きな人たちは、自分で機材や薬品を揃えて、いわゆる「押入れ現像」を行っていました。現像・焼付け・引伸ばしを行うには「暗室」が必要なため、夜になると押入れにこもって作業をしたのです。この頃私が「密着写真」に満足できず、もっと大きな写真をという方向に向かったとしたら、多分「押入れ現像」に進み、その先はスチル・カメラマンになっていたかも知れないと思うことがあります。幸か不幸か、私の場合、幼いながらも家の経済状況は分かっていましたから、フイルム以外にお金を掛けることなど思いもよらず、ただただ「本当は映写機が欲しい。動く写真をやりたい」と思い詰めていました。

●余談
 社会人になってから、仕事で「富士フイルム」「キヤノン」に出入りさせて頂きました。両社とも伝統ある社名に誇りを持ち、「うちの社名表記は<フルム>ではありませんよ」「キヤノンの<>は大文字であることをお間違いなきよう」と念を押されました。もちろん今も変わらず。両社の新聞広告、カタログ、WEBをよくご覧ください。「富士フルム株式会社」「キノン株式会社」と、両者とも大文字表記になっているはずです。

 

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sig

kwmmさん、こんにちは。早々にありがとうございます。
by sig (2008-04-11 10:19) 

sig

●カメキチさんから、まだこの欄にコメントを書き込めないとのことで、メールで下記のコメントを頂きました。そのまま転載させて頂きます。
カメキチさん、ありがとうございました。 sig

懐かしいお話、楽しく拝見しました。スタート35には思い出があります。
ある日豊島園に遊びに行ったとき、そこでスタート35を貸し出し、写真コンテストが行われていました。早速借り出し、野点を見る宗匠頭巾の老人を撮影したもを応募、最優秀特選に入賞した思い出です。
そのネガは入選と同時に主催者がわに提出することになっており手元にはありません。
またリコーフレックスは、当時7500円定価のものが品薄のため12000円とプレミア付きで購入しました。初めての2眼レフカメラを手にして大感動でした。とにかく見たまま、距離もピントを合わせればそのままという今迄手動と感に頼っていたことが,見たままで撮影できる素晴らしさはまさに私にとっては革命的でした。
このカメラによって新しい世界が開け、コンテスト入賞は大いに増えました。



by sig (2008-04-11 17:21) 

sig

Chinchikoさん、ご覧頂き、ありがとうございます。
by sig (2008-04-11 17:26) 

sig

takagakiさん、ご覧頂き、ありがとうございます。
by sig (2008-04-11 18:40) 

sazan

へえ~
フイルム、キヤノン、大文字だったんですねえ。
まったく気づきませんでした。

by sazan (2008-04-12 22:45) 

sig

sazanさん、ようこそ。
ここでこんな昔話を書いてます。
sazanさんのセンスとは違う雑学のようなものですが、よろしかったらまたどうぞ覗いてください。ありがとうございました。

by sig (2008-04-12 23:27) 

sig

furukabaさん、お帰りなさい。
また、楽しみが増えました。
by sig (2008-04-12 23:28) 

sig

バズー☆ さん、こんにちは。
デジタル一眼レフカメラのずーっとずーっと昔の話です。
by sig (2008-04-14 10:26) 

puripuri

私も小学何年生だったのか記憶が薄くって、、、父に「カメラが欲しい~」っと言い
お年玉を渡しすと買って来てくれました。いくらお金を渡したのか、実際にいくらしたのか不明。
フイルムを入れて、うちのネコや犬、その他を撮っていました。
あのカメラは何処に入ったのやら、、。長兄が自分で現像・焼付け等を家でしていて(趣味)
フイルムをたくさんぶら下げて乾かしていたのを覚えています。
そのうちに兄のカメラで撮ったり、社会人になって自分で買って楽しんだりと。
by puripuri (2008-04-14 20:10) 

TAKA

こんばんは、楽しく拝見させていただきました。
失礼ですが、親父も押入れ現像していました。私の小さい頃の写真は、
全て親父が焼いたもので、イーゼルをきちんとセットしていなかったのか、
幅が左右で違うものや、水洗いをあまりしなかったのか、ハイポが
抜けずに、黄ばんでいるものなど、色々あります。
また、拝見させて頂きます。
by TAKA (2008-04-14 22:30) 

sig

puripuriさん、こんばんは。
puripuriさんも小さい頃から、ほんとに写真がお好きだったんですね。
本格的に楽しんでおられたご様子のお兄さんの影響大ですね。
私のブログがきっかけで思い出していただけたとしたら、とてもうれしいです。
by sig (2008-04-14 23:07) 

sig

TAKAさん、おいでいただいてうれしいです。
実は私も社会人になってから、一応、押入れ現像を経験しています。お父さんもきっとご多忙の中での作業だったでしょうから、水洗いにあまり時間を取れなかったのかもしれませんね。
でも、小さい頃のお父さんの思い出として、こうして残っていることがすばらしいですね。
またお待ちしております。
by sig (2008-04-14 23:12) 

corrado

私の拙い記事にコメントを頂いて有り難うございます。
やはり世代ですか、
私のカメラ史と違いますね。
考えてみれば、安価でカラー写真が撮れ、
自動露出が付いたカメラを最初から使えた
私はとても恵まれていましたね。

by corrado (2008-04-19 22:36) 

sig

corradoさん、今晩は。
ここに記したことは大昔のことではなくて、50年ほど前のことなんです(やはり大昔か)。
形が変われば撮影の仕方も変わる。私たちはある意味で、とても面白いものを見てきたわけです。
これからの変化については、ぜひcorradoさんが語り部になって伝えていってください。
by sig (2008-04-19 23:47) 

Qoo

いつも丁寧なコメントありがとうございます
少しずつですが拝見させて頂いてます
「キヤノン」「富士フイルム」 今まで知りませんでした
面白いものですね(^^)
小学生の頃だったと思いますが
理科の実験で「ピンホールカメラ」を作ったような記憶があります
当時はあまり興味なかったのですが…
by Qoo (2008-06-05 16:11) 

sig

Qooさん、ようこそ「昭和館」へ。
ピンホールカメラ、懐かしいですね。
ピンホールも凝ると随分奥行きがあるという話ですよ。
あまり興味のなかったQooさんが、今やカメラがなくては夜も日も開けなくなっちゃった。
でもほんと。写真は楽しいですよね。そして「動く写真」も。
ビデオの方はいかがですか?
by sig (2008-06-05 19:06) 

Qoo

こんばんは
そう、今や寝ても覚めてもカメラです(^^ゞ
ビデオは最近小型のハンディーカム(この言葉は死語?)を買いました
これは、犬の記録を取りたくて
しかし、子供を追いかけていた頃より情熱が無くなりました
子供も大きくなってしまうと楽しみが半減です(^^ゞ
その分金は掛かりませんが(^O^)
by Qoo (2008-06-05 20:55) 

sig

Qooさん、こんばんは。
ハンディカムという言葉は今も使われていますよ。
sigはもうとっくに子育ては卒業していますから、このブログの「映像なかま」のカテゴリーでご紹介しているように、ビデオを使って表現する、作品作りを目指しています。
メインは動画ですが、スチルを使って動画風に見せるビデオもある訳で、Qooさんはどちらもお持ちな訳ですから、お楽しみは2倍、というところではないですか。
by sig (2008-06-05 23:11) 

sig

Take-Takeさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-07-19 14:00) 

sig

hideyaさん、はじめまして。こんばんは。
ご来館ありがとうございます。
by sig (2010-04-26 22:18) 

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