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これぞ動画の原点。紙フィルムの絵が動く [小型映画ミニミニ博物館]

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これぞ動画の原点。紙フィルムの絵が動く
50年の念願叶う。今、紙フィルム映写機 [後編]  

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 さて、当博物館オープン記念の内々のお祝いとして購入した「大人の科学
Vol.15/紙フィルム映写機」ですが、封を切る手ももどかしく、早速組み立てキットを開封したことは言うまでもありません。発泡スチロールの枠にきれいに収まったプラスチックの部品や金属パーツは細かいので無くさないように注意しなければなりません。まずは本紙の組み立て説明図のページを開いて、順序を確認しながらそのつど必要パーツを一個ずつ取り出して組み込んで行きます。これは昔プラモデルを作った経験からで、分かったつもりで自分勝手に進めると、あとでやり直しが利かなくなることがありますから、決して早まってはいけません。

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●光源は単三2本の豆電球。
 ギアはハンドルの回転と連動し、的確にフィルムを巻き取ります。

  パーツは全部で
25種類くらいでしょうか。だからステップごとに慎重にゆっくり進めても、2時間くらいで組み立てることができました。ちょっと手間取ったのはスプリングを使う部分です。これは2箇所あって、はめ込むのに多少のテクニックを要します。難しいかなと思った映写機の心臓部・ギアボックスは、3
種類の歯車を並べてカバーをビス止めするだけで簡単にできてしまいました。

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●紙フィルムにはミシンが入っていますから、きれいにテープ状にすることができます。モノクロとカラーのフィルムが9本も付属しています。

 ところで肝心の部分。この映写機の最大の特徴は、何と言ってもフィルムが紙だということです。私たちの常識である透明のフィルムを使わないで、普通の紙に印刷された、あるいは自分で手書きした動画を投影することができる、それがこの紙フィルム映写機なんですが、フィルムに光を通さずに、そんなことができるのでしょうか。そこが「大人の科学・紙フィルム映写機」の勘どころです。

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●光源の豆電球の光をミラーで反射させ、左の溝を通るフィルムの画像を照らし、その反射光をレンズで投影します。

  私たちが映画を観るときには、フィルムのうしろに光源があって、フィルムを通過した光の濃淡、色彩をレンズに収束させて、直接、スクリーンに投影したものを見ています。これが「透過光式映写機」です。これはフィルムが透明だからできるのです。これだけでも透明フィルムの発明が映画の発達を大きく変えたということが推測できるのですが、そのお話についてはいずれ「映画技術おもしろ発達史」のカテゴリーで触れるとして、ではそれ以前はどうしていたのか。それがこの「反射光式映写機」だったんですね。この方式は光源で照らし出されて反射した画像をレンズで集めて投影するというものなのです。

  従って当然ながら、透明フィルムに比べて画面が暗いということが難点になります。もちろん優れた点もたくさんあります。まず、コストの面ですね。透明フィルムよりも紙のほうが安上がりなのは当たり前。それに、印刷すれば作れるのですから現像の必要が無い。おまけに、当時まだ開発されていなかったカラー映画の向こうを張って、色付きの動画を楽しめる。しかも、昔のフィルムは可燃性で爆発の危険がありましたが、紙製なら安全、という具合です。

 ただ、画面が暗いために大きく拡大できないという点はいかんともしがたく、もっぱら裕福な家庭の児童のおもちゃとして珍重されていたようです。この反射光式映写機で動画を楽しんだのは大正から昭和の初め頃まででしょうか。それ以前、つまり明治の半ばに映画が伝わるまでは、もっぱらこの方式は幻灯機に用いられていたものなんですね。

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●左/フィルム送り機構 右/1コマ掻き落とし機構

  さて二番目の特徴は、フィルム送りのメカニックです。手回し映写機ですからフィルムの運行はクランクを回して手動で行うのですが、問題は連続した絵を動いているように見せるための間欠運動の部分です。これが実に見事にできております。フィルム自体は画面と画面の中間に開けられた穴(パーフォレーション)に、回転ハンドルに直結したスプロケットの突起が噛み合って運ばれるのですが、その突起と連動してフィルム送り板が回転して、きっかり
1コマずつ順繰りに引き下げられるようになっております(動画参照)。このフィルム送り板が1回転する瞬間、画面はレンズの前に停止します。それが連続して行われるために残像効果で絵が動いて見えるという訳です。実によく考えられたものですね。


●上/フィルム送り機構 
 下/1コマ掻き落とし機構…1コマが一瞬停止するところがポイントです。


 
とまあそういういう具合で、映写機自体は難なく出来上がったのですが、一番てこずったのはフィルムでした。この映写機には無声映画時代のモノクロアニメから現代アーチストの手によるアーティスティックなオリジナルフィルムまで9本ものフィルムがオマケとしてついていて、映写機のハードに対してフィルムというソフトも重要という学研の気遣いがとてもうれしく感じられるところなんですが、幅19ミリ、1コマの面積は19×12ミリ、1本の長さが533コマで手回し上映時間にして約1分。それが1枚のシートになっていますので、1本ずつ切り離してつながなくてはなりません(写真参照)。
  幸いミシン目が入っているのできれいに切り離せるのですが、問題はパーフォレーションの穴。これは楊枝で
1コマずつ破いたあと、つめの先で11
個取り去らないと使えません(写真参照)。この作業がいちばん時間が掛かりました。

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●1本あたり533個の穴を一つずつ楊枝と爪先で抜いていきます。

  けれど、ものは考えよう。
BGMを聞きながらやってもいいし、鼻歌交じりでやってもいいし…。けれども私は、音楽も聴かずひたすらその単純作業に没頭しました。すると集中力がもたらした効果といいますか、不思議なことにとても気持ちが澄んできたんですね。そのとたん、私が少年時代に作った手書き紙フィルムの感触が蘇ってきたんです。それは細くテープ状に切った紙フィルムを両手で巻いたあの感触でした。長時間にわたる本当に細かい作業。でもその時間、私は少年時代の自分と対話していたのです。それはとても充実した至福の時間を私にもたらしてくれたのでした。


●豆電球の光源で名刺大に投影したものを、こちらからビデオカメラで撮影したものです。超高輝度LEDライトを使うと、格段に明るく映るそうです。

 
  今回は技術的な事柄が多くて退屈されたかもしれませんね。でも、一応「博物館」を標榜しているものですから単なる見世物では済まされない訳でして……。ということで当館は、この紙フィルム映写機をコレクションの目玉の一つに加えさせて頂くことにして、ほかの8ミリカメラや映写機といっしょに展示棚に並べることに致しました。これからはそれらの機材を一つずつ紹介していくことになります。それは今日のデジタルによるビデオ映像に至るまでのフィルムの時代を遡ることになります。「小型映画ミニミニ博物館」の次回からは、時代を平成デシタルから昭和アナログに巻き戻して、小型映画の発達をご覧頂くことに致しましょう。

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コメント 15

TAKA

こんばんは
完成したようですね。おめでとうございます。パーフォレーションの
穴あけ大変そうですね。気が遠くなりそうです。
でも、出来上がった時の感動は、一入大きいですよね。
昨日、子供たちの本の付録を作ったのですが、こんなに不雑なものが、
子供に作れるのか?と言うくらい、暇が掛りました。パーフォレーションの
穴と同様なミシン目付の穴をあける作業があったのですが、自分のものを
作っているわけではないため、イライラしました。...

by TAKA (2008-05-27 01:31) 

sig

TAKAさん、早々のコメント、ありがとうございました。
私もフィルムはブログ撮影用に2本作ったに留めました。とにかく映って動くことを確認する、それが私の目的ですから。学研の目的もそこにあると思います。
このブログの「小型映画ミニミニ博物館」タグでは、こんな形で進めますから、興味のない方も出てくるのでは、と思いますが、できるだけ機械だけの説明に終わらないように話を膨らませることを心がけたいと思います。
これからもどうぞよろしく。
by sig (2008-05-27 09:09) 

furukaba

鉄腕アトムの映像にはビックリしました。
反射光式映写機も初めて拝見しました。
少年時代への郷愁を再現した映像にNice!を沢山付けたい程です。
完成おめどう御座います。

余談:私の少年時代は鉱石ラジオを組み立てることでした。
by furukaba (2008-05-27 11:54) 

sig

石原さんからメールでコメントを頂きましたので掲載させて頂きます。石原さん。ありがとうございました。

「映写機はなかなか精巧に出来ていますね。
フイルムの 穴あけも好きで無ければ出来ない作業ですね。
仕掛けが動画で見られたのは良かったです。アトムの動画も良かったですね。
何か少年時代に戻ったような気がして、懐かしかったです。
sigさんの嬉しそうなお顔が目に浮かびます。」石原恙逸



by sig (2008-05-27 19:05) 

sig

furukabaさん、コメントありがとうございます。
furukabaさんからは100niceほど頂きました。
今回の記事(前・後編)は結構がんばって作りましたので、うれしいです。
夢を実現させてくれた学研にも感謝!
鉱石ラジオは少年たちの定番でしたから私も作りました。ちゃんと聞けたときのうれしさはよく覚えています。
今のテレビやパソコンは簡単な組立てキットという訳にはいかないので、「子供の科学」では難しいでしょうね。

by sig (2008-05-27 19:14) 

sig

ChinchikoPapaさん、今日もご来館ありがとうございます。
いいs歳をして遊んでおります。

by sig (2008-05-28 00:03) 

sig

xml_xslさん、ご来館ありがとうございました。

by sig (2008-05-29 11:29) 

sig

kemmさん、ご来館ありがとうございます。

by sig (2008-05-29 11:31) 

いぬ

こんばんは
ブログを読んでいると 人の創造力って凄いんだなぁって思います
漫画から始まり 動いたらと紙フィルム そして透明フィルム
こんなのがあったらと思い それが形になるんですね
僕は自分の事 想像力 創造力は無いと思っているのですが
その前に欲が無いんでしょうね
by いぬ (2008-05-29 19:34) 

sig

いぬさん、こんばんは。ブログをご覧頂き、ありがとうございます。
私たちの世代の経験では、欲しいものが山ほどあるのに、周りには何も無かったのでした。親に頼んでも無理なことは分かっていますから、困らせないように気を配り、自分で何とかしようと工夫します。それが想像や創造に結びつく訳で、そのベースはやはりハングリー精神だと思います。
当然完璧なものは望めないので、納得できる一応のところで我慢します。ですから、「欲しいものを我慢する」と「完璧でなくても我慢する」、この我慢の二重奏で、忍耐力とこころの柔軟性のようなものが鍛えられてきたような気がするのです。
物質的に恵まれた現代でも精神的飢餓というのはあるはずで、やはりいちばん最初に「こうしたい」「こうなりたい」という強力な欲求が原動力として働く時に、想像や創造へのアクションが生まれてくるのでしょうね。
by sig (2008-05-29 21:04) 

Qoo

初めまして
いや、驚きました
素晴らしいですね
鉄腕アトムは感動です(^^)
またお邪魔します
by Qoo (2008-05-31 16:48) 

sig

Qooさん、はじめまして。
先ほどQooさんのブログを覗かせて頂きました。
写真もコメントも楽しく見せて頂きました。
どうぞまた遊びに来てください。
by sig (2008-05-31 17:33) 

mama

亡くなった叔父が8mmテープとカメラをたくさん持っていたのですが、
私たちにはどうしていいのか判らず、叔母も「廃棄」と言うので捨ててしまいました。
今思えば、何十年も前の北海道の懐かしい景色が見れたのにと後悔しています。
古きを知って…ですよね~
by mama (2008-06-02 22:12) 

sig

mamaさん、ご来館ありがとうございます。
古いカメラや8ミリ映画はそれを愛した本人の代まで。それ以降は引き継ぐ人がいない限り、処分される運命にあるのですよね。それはsigも同様です。sigは物持ちがいい方で(笑)、古いものを捨てきれずに今日まで来ました。他人にとってはまったく価値がないものでも、それらが今の自分を形成してくれたのです。それなら、そうした物たちに、今のうちに光を与えてあげよう…その目的でこのブログを進めることにしました。
叔父さんの8ミリ映画、今ならDVDにして楽しむこともできるのですが、残念ですね。
ところでmamaさんは、お子様の成長をビデオで記録されていると思いますが、大事にしてくださいね。

by sig (2008-06-03 09:59) 

tarezitoyuki

兵庫県の55歳です。
先日、実家の整理をしていたところ大量の紙のフィルムが見つかりました。
箱の入った状態で「ターザン」や「のらくろ」など他に戦争もののようなものがあります。
子供頃、木の箱のような映写機があったのをうっすら覚えていますが、映写機は見つかりませんでした。
紙のフィルムの映写機は手に入らないでしょうか?
失礼を承知でお伺いします、わかればお願いします。



by tarezitoyuki (2014-02-22 15:17) 

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