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フィルムフリークが考えた、幻のフィルム規格 [「動画」の自分史]

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フィルムフリークが考えた、幻のフィルム規格
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●シネマスコープ初公開は1953年

  
映画が飛躍的な進化を見せた技術の一つがワイドスクリーン。その代表格が20世紀フォックス社開発によるシネマスコープですが、その第1作「聖衣」が、お正月を飾る大型映画として日本で初公開されたのは1953年(S28)の暮れでした。日本のテレビ放送が始まったのもこの年からでした。私が中学1年生の頃ですが、テレビの登場と共に、NHKがそれまでラジオで放送していた「のど自慢」「二十の扉」「ゼスチャー」「三つの歌」や「大相撲」「プロ野球」「ボクシング」などの人気番組はテレビでも放映されるようになったらしいのですが、東京から上越国境を越えて長岡にまで届くテレビ電波はまだなく、家庭の娯楽はラジオが主流という状態はまったく変わらず、映画は相変わらず娯楽の王者でした。

 中学時代の私は、映画館では必ず2回繰り返して観ることを信条としていました。それは前回述べたように、途中から見ることが多かったからということ、それに演技の勉強という理由からでしたが、実はあと二つ、面白い映画の内容をよく覚えておきたかったこと、それに、起承転結という構造を持つといわれる物語の展開がどのように仕組まれているのか、つまり「構成」に興味があったのでした。


 帰宅後、映画の流れを思い出しながらストーリーをメモしていくのですが、「なるほど、始まりはその手で来たか」「これで登場人物は出揃った」「あ、新しい局面が始まったぞ」「これはまた別の展開だ」「二つの局面が合流したぞ」「さあ、これからがクライマックスだ」「なるほど、おしまいはそうまとめたか」という具合に起承転結を意識的に把握するようにまとめていく反芻作業は、結構楽しいものでした。


 こうして書き留めたメモは、今風にいえば映画のノベライゼーションのようなものなので、それを豆本にすることにしました。中学生がまったくの遊びで作るままごとに等しい行為なのですが、一本の映画を豆本1冊にまとめてみると、<1冊だけでは寂しい。観た映画はみんな豆本にして映画全集にしよう>、などと遊びごころが膨らみます。こうして、その頃観た西部劇「シェーン」に始まり、SFの「放射能X」「ゴジラ」などがシリーズに連なりました。

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●1954年、中学2年生の時、「放射能X」を観て作った豆本(絵も文字も下手なこと)
たまたま発見! 絶対お勧め。
 今ならGYAOで「放射能X」を全編無料で見られます。(10/1正午まで)
 

http://www.gyao.jp/sityou/catedetail/contents_id/cnt0042284/


 
けれども頻繁に映画を観る訳ではないので、そのうちに自分で考えたお話も加えることにして、全部で10冊ほどの豆本を作りました。こうしてまとまった豆本全集は、もう一つの遊びであった紙フィルムづくりにつながり、同タイトルの紙フィルムが作られていきました。ちょっと大げさに言うと、昔、「角川書店」がその出版物を「角川映画」で映画化し、相乗効果による売り上げ増進を図ったと同じ構想、つまり映画と出版のタイアップによるクロスメディア戦略が、そうとは意識しない子供の遊びの中で行われていたのでした。

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●自作のシナリオや物語の豆本

 
ところで自作の紙フィルム。本物の映画会社に倣い、自分の苗字に「映画社」の文字を付けた「○○映画社」を標榜していたのですが、業界が急速にワイドスクリーンに変わってきたので、我が社としてもワイドスクリーンを検討せずにはいられなくなりました。そこで、兄が持っている視聴覚教育の資料をめくり、多分その中からシネマスコープの概要をつかんだのではないかと思います。

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●左はシネマスコープフィルムの1コマ。左右が圧縮されて撮影されている。
●右はスクリーンに上映した場合。


 それによるとシネマスコープの縦と横の比率(アスペクト比)は1:2.39。いわゆるスタンダード画面(1:1.33)の2倍近い広がりを持っています。ところがフィルム幅は通常の35ミリなのです。それでなぜ、2倍近い横長画面にできるのか。それは撮影時に歪像レンズ(アナモルフィックレンズ)と呼ぶ特殊なレンズを使って、左右に広い情景を縦に圧縮(スクイーズ)して写し撮り、映写時にはまたそのレンズを使って上映することで、画面を元の広さに戻しているというのです。なるほど。本来スタンダード1コマ分の面積がシネマスコープではほぼ2倍に拡大されるから、スクリーンの近くではフィルムの粒子が踊って見えるほどに荒れるんだ。と納得がいきました。

 そこで我が紙フィルムメーカーとしてはどうすべきか。考えたらすぐにアイディアが浮かびました。当社はまったく資金力がありませんから、そんな特殊なレンズを使わなくても、同じ35ミリフィルムを使ってそのままワイド画面の映画が作れるという、いかにも中学生が考えそうなアイディアです。

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●左/シネマスコープのフィルム
●右/左の1コマを横に二等分した形でシネスコの縦横比を得るというアイディア


 それは単純に、スタンダード画面の1コマを横に2等分するというものでした。すると横長になった1コマはほぼシネマスコープの縦横比に匹敵します。その代わり本来の1コマを2コマとして使うので、フィルムの粒子は半分、つまり解像度は二分の一になります。けれども経済的にみたら、この方式ならカメラや映写機をちょっと改造するだけで済むはずだし、フィルムのプリント費が半分になる。また、同じ大きさのリールで2倍の時間上映が可能だから映写技師の手間が省ける。しかもフィルムを輸送するにも半額で済む。すばらしい。自画自賛しながら、それ以降「○○映画社」の紙フィルムはこのアイディアをもとにワイド仕様に変わるのですが、これを実際の問題として考えるとどうなのか。果たして使い物になるアイディアなのか、それが知りたいと思いました。

 
35ミリフィルムの1コマを横に2分してシネマスコープの画面をつくるというこのアイディア。実はずっとあとで知ったことですが、この方式は実際にアメリカにおいて「テク二スコープ」の名で1960(S35)年に開発され、数本の映画も製作されたというのです。また日本でも1958(S33)年頃同様のアイディアで、USS(ウルトラ・セミ・スコープ)と名づけたワイド方式が開発されたとのことでした。ちなみに私がこのアィディアを思いついたのは、生まれてはじめてみたシネマスコープ映画、ロバート・ミッチャム、マリリン・モンロー主演の「帰らざる河」(1954/S29)の直後、中学2年生の時でした。

 その頃の私はそれらの方式で公開された大型映画を知りません。そこで調べてみましたら、両方式とも、1954年(S29)に登場していたパラマウント社・ビスタビジョンの鮮明な大画面に押されて自然消滅したらしいのです。まさに大型映画の世界的開発競争の渦中で忘れ去られていった泡沫的なアイディアだったのです。
 ビスタビジョン第1作「ホワイト・クリスマス」の公開は、奇しくも我が「○○映画社」が上記のワイドスクリーンアイディアを思いついた年でした。だからアイディアとしてはすでにパラマウント社に大きく水をあけられていたのですが、曲がりなりにも自分が中学生時代に考えたことが、現実の世界で実現していたのだと思うだけですごくうれしいことでした。


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花火師

面白いアイデアなのに・・・
by 花火師 (2008-06-17 01:42) 

sig

おはようございます、花火師さん。
でも、このフィルム規格では、大劇場ではスクリーンの画面が荒れすぎて、観客に逃げられてしまったと思いますよ。
現在のシネコンのような100人程度のミニシアターならちょうど良かったと思います。sigは時代を先取りしすぎたのです。(大笑い)
by sig (2008-06-17 08:20) 

パズー☆彡

こんにちは!!
「ミケちゃんのなみだ」ばっかり見てまして、
こっちをノーマークでした!!
凄いですね!!
映画大好きだったんですね!!
豆本を作ったり研究したり、
素晴らしいですね!!
私の中学生の時を考えたら
まったく異次元の絵世界ですね!!
ヽ(^o^)丿
by パズー☆彡 (2008-06-17 15:32) 

sig

バズー☆ さん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
「ミケちゃんブログ」はこのブログを始めたことの副産物なんです。
これは今年のお正月から始めて、週2回のペースで進めています。
何も隠し立てする必要はないので実名でいいのですが、一応sigとしてあります。でも、ここにはなんでもかんでも書き込んでありますから、sigのすべてが分かります。(笑)
よろしかったらこちらもどうぞよろしく。
by sig (2008-06-17 17:31) 

sig

rararinndouさん、こんばんは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-06-17 18:55) 

corrado

ご訪問有り難うございます。
映画の方式は難しいですね。
パナビジョンという方式だけは聞いた事がありますが・・・
by corrado (2008-06-17 21:32) 

sig

corradoさん、ご来館ありがとうございます。
映画の技術的な事柄については、これから展開する「映画技術おもしろ発達史」のカテゴリーでお話したいと思います。
もし興味がおありでしたら、どうぞよろしく。
by sig (2008-06-17 22:28) 

sig

xml_xslさん、こんばんは。ご来館ありがとうございます。

by sig (2008-06-18 00:01) 

TAKA

こんばんは
だんだん、専門的な内容になり、コメントしづらくなってきました。
見ていないわけではないのですが...
sigさんの映画に関する豊富な知識を教授していただくということで、
拝見させていただきます。
私は、スーパー8、シングル8くらいしかわかりませんので、

by TAKA (2008-06-18 01:41) 

sig

TAKAさん、こんにちは。
メカに関する話はどうしても退屈なものになってしまいますが、ここに書いた事柄は実はどうでもよくて、ご自分の中学生の頃を思い出していただければいいのです。
シングル8、スーパー8については、これから「小型映画ミニミニ博物館」のカテゴリーでご覧頂こうと思っております。こちらは技術的なものになりますが。

by sig (2008-06-18 09:28) 

ChinchikoPapa

とても面白く拝読しました。
帰宅されてから、映画のストーリーを追いかけてまとめられるということは、ちょうど成果物としての作品からプロット作りへと逆にたどられていることになり、作品の基盤=大もとになる物語のアイデアまでが透けて見えてきそうですね。シナリオや物語を創作するうえで、最適な勉強方法だと思いました。(脱帽です<(_ _)>)

by ChinchikoPapa (2008-06-18 11:13) 

sig

Chinchiko Papaさんはおだてがお上手。
でも、確かに仰るとおりで、機械でも同じこと。組み立てられたものを解体してみると、なぜそういう仕組みになっているかを理解できまますよね。
このブログの「ニューシネマパラダイス」のところでも書いたのですが、映画を観ていてもどこかに客観的に観察している目があって、その構造を分析しているんです。いやな観客です。
それだけに、こちらの想像もつかない展開を見せてくれたら、もうのめり込んじゃいます。特に娯楽映画の醍醐味は、どんどん裏切られ、だまされる楽しさだと思うのです。
by sig (2008-06-18 11:55) 

銀猫

無事に退院してまいりました~ ^^
ご心配していただき、ありがとうございました m(_ _)m
なんだか楽しそうなことして遊んで・・・じゃなく勉強してらしたんですね~ ^^
sigさんの子供時代、同年代で友達だったら楽しかっただろうな~♪
by 銀猫 (2008-06-18 12:55) 

sig

銀猫さん、お帰りなさい。お元気でよかったです。
でも、もう早速パソコンですか。ちょっとまずいのでは。
どうぞくれぐれも無理をなさらぬように。
sigの中学時代は、勉強もしないでこんなことばっかり。こどもは遊びながらいろんなことを覚えていくんですよね。
このころ銀猫さんが友だちだったら、たぶん「ミかえるくん」のような創作童話なんかを交換し合ったりしていたかも。

by sig (2008-06-18 15:00) 

sig

kontentenさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-06-18 15:02) 

sig

ねこじゃらんさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-06-18 15:02) 

sig

kemmさん、こんばんは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-06-19 19:20) 

Qoo

ご無沙汰しました
マメ本、ずっと保管してあったのですね
凄いですね、宝物ですね
by Qoo (2008-06-20 15:30) 

sig

Qooさん、いつも見てくださってありがとうございます。
豆本は30年ほど前に実家の母が、家の建て替えで捨てられてしまわないうちに、と送ってくれたものなんです。
その時に帰省して、子供時代の教科書から雑誌から何から何まで持ち帰りたかったのですが、仕事が忙しくて帰れないうちに全部廃棄されてしまいました。だからなお更この豆本は私にとっては大事なものなのです。
by sig (2008-06-20 17:50) 

sig

八犬伝さん、ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-06-22 11:23) 

sig

みかっちさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-06-22 16:50) 

sig

leoさん、こんにちは。ご来館ありがとうございました。
by sig (2008-07-10 10:00) 

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