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「ペンタックス」の隠し技 [昭和ガラクタ箱]

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「ペンタックス」の隠し技…立体写真

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 前回のブログでは、購入してから40年も経った「アサヒペンタックスSP」を持ち出して、その頃の自分の写真生活を思い出しておりましたが、実はこのペンタックスには知る人ぞ知る、他のメーカーのカメラにはない特殊な隠し技が秘められていたのでした。それは立体写真。今で言う「3Dフォト」です。うれしいことにこうした遊びごごろが、つい最近までペンタックスには付加価値として考えられていたのでした。


 立体写真…ステレオスコープ(双眼写真鏡)は、1839年にダゲールによる銀板写真が生まれて間もなく考えられ始めたようです。風景や人物を印画紙に写し撮る技術が生まれれば、それを平面で見るのではなく、実際に見た目のように立体的に出来ないものかと考えるのは人間のさが。ステレオスコープは1851年のロンドン万国博に出展されて大人気となり、ビクトリア朝の英国で一大ブームを引き起こしたと伝えられています。

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●上/19世紀中頃のステレオスコープ 上部はスチル写真を拡大する凸レンズ、

   その下がステレオスコープ
●下/ビクトリア朝時代の貴族の立体記念写真

 それをきっかけに、人間の両眼に相当する2本のレンズを並べた立体写真撮影専門の大型カメラで、エジプト、ローマ、ニューヨークなど世界の名所を撮影した立体写真が販売されたり、貴族階級やお金持ちの家庭では家族の肖像を立体写真で記念撮影したりするようになりました。そのうち次第に普及するにつれ、中流家庭の客間にはこぞってステレオビューアーが置かれるようになったということです。
 ここに私たちは、映画やテレビが生まれる前の人たちの映像への接し方を見ることができます。まだ動画を知らない人たちの関心は、「動く写真」を求める前に、臨場感溢れる大型パノラマや立体写真に向かったのでした。


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●上/第二次世界大戦頃のステレオカメラ 建築や戦争記録などに使用
 中・下/ヒトラーを喜ばせたフランス戦線の立体写真

 それはさておき、1964年に発売された「アサヒペンタックスSP」には、オプションで55ミリ標準レンズ専用のステレオアダプター(¥3,800)が用意されていました(写真参照)。

アサペン自体は一眼ですからレンズは1本。そのため人の両眼に相当するアダプターを標準レンズの前に装着して撮影します。

すると、アダプター内部に仕組まれたミラーによって、1回の撮影で右目で見た像と左目で見た像が1コマの中に並んで写し込まれます。それを同梱のステレオビューアーで眺めると立体像として見えるのです。

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●左/ステレオアダプターを装着した「アサヒペンタックスSP」
 右/現像上がりのマウントされた写真とステレオビューアー

 なお、立体写真を撮る時はネガではなく、リバーサルフィルム(反転フィルム…白は白、赤は赤に発色)を使います。また、ステレオビューアーで立体写真を見るときには1コマずつしか装着できませんので、現像に出すときに1コマずつマウントするように指定します。


 この立体写真、理屈はとに角、慣れるとビューアーなしで肉眼で立体視することができるようになります。初めての方はどうぞ下の写真で試してみてください。
 2枚の写真を真正面にして、ちょっと寄り眼になるような感じで、二つの写真が中央で重なるように見つめてください。すると像が3つ並びます。その真ん中が立体写真になっているはずです。ちょっと難しいかもしれませんが…どうです? 花が浮き出して見えましたか。


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 さて、名機と呼ばれた「アサヒペンタックスSP」から39年後。デジカメの画素数が300万になり、ようやくスナップ程度ならこれで十分と考え、検討していたら、同じペンタックス社の「Optio-S」(2003)が眼にとまりました。その当時最もコンパクトなデジカメで、マクロが2段階で超接写可能。その上録音もできるという特徴を備えていました。そしてそこにもう一つ、あの立体写真の機能が付いていたのです。「ペンタックスだけの…」という商品差別化の観点から残されたのでしょうが、昔アサペンで立体写真を楽しんだ私にとって、それは大きな購入決定ポイントとなりました。


P1030119.JPG●ペンタックス「Optio-S」初代 2003P1030121.JPG
●3Dモードでは縦1/2画面になり、先ず左を撮影したあと両目の間隔だけ右に平行移
 動させて右画面を撮影します。

 「Optio-S」の立体写真撮影の仕組みは簡便になっていて、二つ目玉のステレオアダプターは使いません。3D(立体)モードに切り替えると画面が2分されるので、先ず左の画面を撮影した後、右目の位置にカメラを勘で平行移動させてもう一回撮影するというやり方です。同時に2枚を撮影できないため、被写体が風で揺れたりして左右の画像が極端に違っては立体にはなりませんし、平行移動の要領に慣れないと、2枚の写真はうまく重ならないので立体には見えません。ただ、こうした遊びごころを忘れずにいてくれた「ペンタックス」に好感を覚えました。

 そのペンタックス社は今年2008年3月31日にHOYAと合併して消滅。「ペンタックス」のブランド名は残されたとはいえ、昔からのペンタックスファンにとっては寂しい限りです。


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walz

そういえば、Optio Sには立体視用のメガネみたいなものがついていましたね~
それ以降のOptioシリーズではなくなってしまったような気がします
今回のフォトキナで富士フイルムがデジタルカメラで立体写真が撮れる3Dデジタル映像システムを発表しましたが楽しみです
by walz (2008-10-07 11:02) 

カメキチ

アサペンSPの立体写真用アダプターは購入しませんでしたが、コンデジのアサペンOptioには内蔵され、印画にして楽しめるようになっていますね。
現在も手元にありますが、撮影が面倒であまり活用していません。
宝の持ち腐れですね・・・・・・
by カメキチ (2008-10-07 11:24) 

sig

walzさん、こんにちは。
立体写真、興味おありですか。お好きですか?
面白いですよね。楽しいですよね。こういう遊びごころって、いいですよね。
3D機能付きのペンタックスはこのOptio Sが最後だと思います。
富士フィルムもあそびの要素が考えられていますから、その立体システム、楽しみですね。
by sig (2008-10-07 11:30) 

sig

カメキチさん、こんにちは。
Optio Sでの3D写真の撮影は、記事の一番下に書いたように、同時に2枚の撮影ではありませんから、若干わずらわしいところがあります。それに要領が難しいですね。でも、うまくいくとうれしいんですよね。
プリンタで簡単に3D写真が楽しめるのですから、カメキチさんもぜひ遊んでみてください。
by sig (2008-10-07 11:34) 

sig

ChichikoPapaさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-10-07 13:57) 

いぬ

sigさん こんにちは
写真では見たことないですが
子供の頃 メガネをすると立体になる絵とかありました
遊び心がある会社 魅力的です
by いぬ (2008-10-07 16:52) 

みかっち

sigさん、私は今のOLYMPUSと出会う前は、
Optio 230で撮ってたのですよ♪
ブログスタートの頃はOptioでの撮影です~
父親が購入したカメラですが、おさがりとして私に(笑)
3D機能は使ったことないのですが、そんな特徴的機能だとは、
思いもよりませんでしたっ☆
今はセルフポートくらいしか出番がないのですが、
1度試してみなきゃいけませんねぇ。。。
驚きのお話でした☆

by みかっち (2008-10-07 17:05) 

sig

いぬさん、こんばんは。
3Dについては近いうちにまた記事にする予定です。
赤と青のセロファン眼鏡で見る立体写真などです。
そしたらまた遊びに来てください。
コメントありがとうございました。
by sig (2008-10-07 19:08) 

sig

みかっちさん、こんばんは。
Optioでブログを始められたとのこと、230にも3D機能は付いているのではないかと思うのですが、もし付いていたら、ぜひ試してみてください。動く虫さんの立体写真は無理ですが、風のないときのお花は上手に撮れば浮き出して見えますよ。
OLYMPUSでも理論上は両眼の位置から2枚撮影して、はがき大位にプリントしたものを並べて眺めれば立体に見えるはずですよ。見やすいためには立て位置での撮影がお勧め。どうぞお試しあれ。
by sig (2008-10-07 20:24) 

sig

takagakiさん、こんばんは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-10-07 20:25) 

sig

ChinchikoPapaさんから下記のコメントを頂きました。

画像を擬似3D化して、赤と青のメガネでのぞくしくみを「アナグリフ」といいますが、専用のソフトまでがフリーウェアで提供されていますね。これは、最初から立体写真として撮影されたものでなくても、画像処理で擬似立体に見えるようにしてしまう・・・という優れもののソフトです。
カラーでもモノクロでも立体化できるのですが、特に興味をおぼえたのが空中写真の3D化による地形把握でした。昭和初期の空中写真をもとに、もともとの地形はどのような形状をしていて、それが現在はどのように造成しなおされてしまったのか?・・・というのを視覚的に調べるのに、格好の方法を提供してくれます。
もうひとつ、佐伯祐三の『下落合風景』の3D化により、大正期の下落合をよりリアルに体感できる…という面白さもありました。佐伯は、非常に優れたデッサン力を持っていますから、上記のソフトを使って擬似3D化すると、きれいに立体化して見えるんですよね。これが面白くて、次々と作品を立体化していた時期がありました。^^
by sig (2008-10-07 20:58) 

sig

ChinchikoPapaさん、コメントありがとうございました。
最近Cドライブの不要ソフトを削除したせいかExprorerがすぐに止まってしまう不都合が連続して困っています。コメントが入らなかったのはそれと関係があるのかも知れません。すみません。

このところハリウッドでも、アニメやスペクタクル映画をコンピュータで3D化するようなことが行われているようですね。これからの映画は立体に向かい、その先は…というのがこのブログの結論でもあるのですが、ChinchikoPapaさんのブログでは地図・地形がとても大事な要素になっていますから、簡単に航空写真などの2Dを立体視できるソフトは便利で楽しいものでしょうね。佐伯祐三の絵画の立体視というのは面白そうですね。佐伯祐三に限らず、無限の楽しみがありそうですね。


by sig (2008-10-07 21:14) 

sig

たねさん、こんばんは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-10-07 21:15) 

Ja-Kou66

見えます、見えます!!面白いですね〜(^ ^)

我が家の古カメラ、見てみました〜
AIRES CAMERA III(3) s、AIRES CAMERA III c
BABY PEARL(ポケットカメラ??)
ASAHI PENTAX SPOTMATIC(同じ物2台!?)
Canon PELLIX・・・
と、ボディに書かれております。型番とか良く分かりませんが
sigさんが見ればすぐ分かるのでしょうね(^ ^)
ペンタックスのは、上の画像のと一緒かも〜
by Ja-Kou66 (2008-10-07 23:30) 

sig

yannさん、こんばんは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-10-07 23:52) 

sig

Ja-Kou66さん、こんばんは。
立体に見えましたか。えらいですねー。何回見ても立体に見えないという人も結構いるんですよ。
ずいぶんたくさんカメラをお持ちなんですね。
ASAHI PENTAX SPOTMATICというのが私のカメラと同じものですが、上の写真のようなステレオアダプターがないと一度で立体写真は撮れません。ただ、2台あるということですから、両方とも50ミリか55ミリの標準レンズがついているようなら、2台くっつけて並べていっしょにシャッターを切れば、2枚の写真になりますが並べれて見れば立体視できます。けれども、カメラを2台並べるための仕組みが大変でしょう。
アサペンにこだわらず、立体写真は理論上はどんなカメラでも、左目の位置からと右目の位置から1枚ずつ撮影したものをハガキ大にプリントし、それを並べて眺めれば立体に見えるはずです。
見やすいためには立て位置での撮影がお勧めです。おあそびで花とか建物とか静物などはどうでしょう。猫ちゃんは寝ているとか動かないポーズでないと立体写真は無理ですよ。

by sig (2008-10-08 00:17) 

furukaba

おはよう御座います。
立体写真でしばらく楽しませていただきました。


by furukaba (2008-10-08 07:24) 

sig

furukabaさん、こんにちは。
うまく立体に見えましたか。ありがとうございます。
今はデジタルで、2Dの画像を3Dに変換して立体視できるようになりましたが、このようないわゆる昭和時代の平行法による立体視や赤青眼鏡による立体視も捨てがたいのですよ。
by sig (2008-10-08 10:41) 

sig

BlackTigerさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
立体に見えましたでしょうか。
by sig (2008-10-08 10:44) 

sig

ヨタ8改さん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-10-08 10:45) 

sig

xml_xslさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-10-08 13:35) 

sig

lamerさん、こんばんは。ご来館ありがとうございました。
by sig (2008-10-08 19:47) 

Qoo

お~、目がメッチャ疲れた(@_@)
これ、、メッチャ好きなんですよ
以前本まで買って目の運動してました
不思議な現象ですよね
3D機能面白いですね~(^^)
こんな機能がカメラに付いていたなんて驚きです
欲しいな~

by Qoo (2008-10-08 21:38) 

sig

Qooさん、こんばんは。
Qooさんも3Dが好きだったんですか。よかった。
3D用のカメラでなくても、例えばデジカメで左目の分として1枚撮影し、そのまま少しカメラを平行移動させて右目の分を1枚撮影。その2枚をはがき大くらいにプリントアウトして2枚並べて見れば理論上は立体視可能です。
その際、見やすいように、撮影は立て位置がいいですね。
また、2枚を同時に撮影できませんから、被写体そのものが動いたり、風で揺れたりしたらダメですから要注意。
by sig (2008-10-09 00:27) 

kazz

おぉ〜!立体写真を裸眼で見るのって数年前にも爆発的に流行りましたよね。
私は結構得意でちゃんと見れます(^^)v
今自分のデジイチがペンタックスということもあり、興味深く読ませていただきました。
「個性的」いい響きですよね。
画素数ばかりあがる昨今のカメラ、遊び心はとても大事ですよね。
オプティオにそんな機能があるとは知りませんでした。

by kazz (2008-10-11 01:18) 

sig

Yamagatnさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-10-11 07:53) 

sig

Kazzさん、こんにちは。
Kazzさんも裸眼視のベテランだったとはうれしいですね。
このブログは、デジタル全盛の時代だからこそ、あえて「アナログ感覚」重視で作っているのですが、とてもうれしいコメントです。
立体視も今やデジタル処理に変わりましたから、最近のOptioには、この機能は付いていないのではないでしょうか。
Kazzさんのすばらしいフォトはデジイチ・ペンタックスですか。なるほど。
by sig (2008-10-11 08:01) 

sig

kemmさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-10-11 15:13) 

sig

甘党大王さん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-10-14 16:36) 

sig

kontentenさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-10-14 16:38) 

sig

Kakashisannさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-10-21 16:59) 

sig

いっぷくさん、こんばんは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2009-04-13 20:38) 

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