東映「白蛇伝」に、日本アニメの未来を見た [「動画」の自分史]
東映「白蛇伝」に、日本アニメの未来を見た
●東映動画「白蛇伝」1958
●「アニメーションといえばディズニー」の時代だった
私にとってアニメーションの魅力とは、絵に書いたものが動くという驚きに他なりません。私は子供の頃に芽生えたこの単純な疑問をずっと抱き続けて成長しました。それは小学生から中学生にかけて学校ぐるみで観たディズニーの長編アニメーション「ダンボ」と「シンデレラ」の強いインパクトによるものです。
それ以来、「アニメーションといえばディズニー」というフレーズは一種の呪文として、またある種の刷り込み現象のように私の中に沈殿していったのですが、その後、映画館に足を運ぶようになってから、本編の前に上映される「ミッキー・マウス」「ドナルド・ダック」「グーフィ」「プルート」などが主役のウォルト・ディズニー短編アニメーションにも接するようになって、さらに親しく感じられるようになりました。その一方で、日本のアニメーションはどうなんだろうという思いが密かにありました。
(戦前・戦中にもディズニーに勝るとも劣らない精緻なアニメーションが作られていたことを知るのは、ずっと後の話になります)
●1958(S33)年、日本製長編アニメ「白蛇伝」誕生
私がアニメーションといえばディズニーしか知らなかった高校3年生のとき、日本で初めての長編アニメーションが公開されました。それが東映動画(H10.10月より「東映アニメーション」)によって製作された「白蛇伝」でした。東映という映画会社はその頃「時代劇の東映」を標榜していましたから、それとアニメーションはとっさには結びつきにくかったのですが、新聞で紹介された力のこもった記事を読んで、これはある意味で日本の動画がディズニーに突きつけた挑戦状だと感じました。
「白蛇伝」は中国の故事で、私も後日テレビで四川省の伝統芸能である川劇の舞台を見たことがありますが、日本では1956年に豊田四郎監督による「白夫人の妖恋」という劇映画も作られていて、なじみのある物語でした。私は気になっていた日本製長編アニメーションがどのようなものかという関心もあって、弟を連れて長岡の映画館に観に行きました。
●すべての登場人物の声を森繁久弥と宮城まり子が演じ分けた、ユニークな演出
●ディズニーに追いつけ。追い越せ!
「白蛇伝」は悲恋物語です。昔、青年に助けられた白蛇の精が、青年を慕って美少女の姿で現れるのですが、その正体を知る和尚に妨げられ、ついに青年は命を落としてしまいます。その命を助けるためには龍王の許しがなけばなりません。白蛇の精は命を賭して龍王の試練に立ち向かいます。
映画は1秒につき24枚のセル画を1コマずつ手書きした総天然色のフル・アニメーションです。青年が少女を探し回る遠近感のある難しいシーンでは、キャラクターの動きが少しぎごちないようなところがありました。けれども、脇を固める侍女の可愛らしさ、悪の手下たちの生き生きとした動き、湖の大波などの自然描写、そして天空をとどろかせて展開する龍王との妖術合戦など、スペクタクル描写はみごとと言うほかありませんでした。
「白蛇伝」には、その頃、映画雑誌か何かで聞きかじっていたディズニーのアニメ手法がかなりの部分導入されているという気がしました。例えばこの映画では、当時新人女優として登場したての佐久間良子がヒロインの動きをライブで演じ、それがアニメートに生かされたと聞きます。また、画面の奥行きを出すために背景と動画を何層にも重ねる撮影台のシステム(マルチプレーンキャメラクレーン)も、ディズニーの手法が反映されていたと思います。これらのテクニックはそのまま、日本のアニメ製作現場におけるテストケースとして大成功を収めたのでした。
●熱気あふれる東映動画とディズニーの競合時代
東映動画はその後、「少年猿飛佐助」(1959)、「西遊記」(1960)、「安寿と厨子王丸」(1961)、「シンドバッドの冒険」(1962)、「わんわん忠臣蔵」「わんぱく王子の大蛇退治」(1963)、「ガリバーの宇宙旅行」(1965)、「太陽の王子 ホルスの大冒険(1968)、「長靴をはいた猫」(1969)…と毎年のように公開され、私はそのたびに観に行きました。
その間、ディズニーは「眠れる森の美女(1959)」「101匹わんちゃん(1961)」「王様の剣(1963)」「ジャングル・ブック(1967)」を公開しました。
1960年代、メジャー・アニメーションの世界はまさに東西両巨頭のコンペティションという様相を呈し、ケンを競い合っていました。この期間、東映動画は製作本数においてディズニーをはるかにしのいでいます。それはそのまま東映動画の心意気を示すものでした。
1970(S45)年代に入ると私も30代を迎えたこともあって次第にアニメの観客からは遠ざかってしまいましたが、それまでに観た長編アニメーションの中で1本だけ選ぶとすれば、私は迷わず、ディズニーなら「眠れる森の美女」、東映動画では「太陽の王子 ホルスの大冒険」、この2作品を最高傑作として挙げたいと思います。巧みなストーリーの展開法、生き生きとしたカメラワーク…。この2本は私にとって、その後社会に出てから携わるようになる映像づくりのバイブル的作品なのです。
●日本アニメの国際化は東映動画から輩出されたアーチストによるところが大きい。
●ディズニーはパートナーに日本のアニメを選んだ
このようにして新しい時代を迎えた日本のアニメーションは、今世紀に入って「ジャパニメーション」という言葉でもてはやされるほど世界的に高い評価を受けるようになりました。また東映動画で数々の名作を生み出してきた人たちが、新しいステージに立って名作を生み出し続けています。例えば宮崎駿・高畑勲両監督の「スタジオジブリ」では「もののけ姫(1997)」「千と千尋の神隠し(2001)」「ハウルの動く城(2003)」などが海外でも好評を博していることが評価され、いい意味でのライバルだったウォルト・ディズニー社との提携が実現。同社を通じて世界に配給されるという快挙を成し遂げたのでした。
デジタル技術による急速な進化で、アニメの製作環境の変化は著しいものがあります。東西二つの力を結びつけて、アニメーションはこれから私たちにどんなすてきな世界を見せてくれるのでしょうか。
★ポスター、スチルは東映アニメーションHPより使わせて頂きました。
■「白蛇伝」以外に1958(S33)年に観た映画
(16歳~17歳 高校3年生 長岡にて)
1/ 7 「嵐を呼ぶ男」「地球防衛軍」
1/10 「花くれないに」「戦雲アジアの女王」
1/29 「顔役(ボス)」「開拓者の決闘」エメラルド劇場
2/23 「陽はまた昇る」「怒りの孤島」ニューギンザ劇場
3/19 「翼よあれがパリの灯だ」「ニューヨークうろちょろ族」
以下、日記が無いため日付不明
「愛情の花咲く樹」「熱いトタン屋根の猫」
「大いなる西部」
「眼下の敵」
「ゴーストタウンの決闘」
「死刑台のエレベーター」
「シンバッド七回目の航海」
「地下水道」
「手錠のままの脱獄」
「深く静かに潜行せよ」
shinさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-12-05 07:19)
takemoviesさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-12-05 07:50)
懐かしいですね~ぇ。
東映のアニメ映画はディズニーに負けてませんでした。
に関わっていた人が・・・ALWAYS三丁目の夕陽の制作に
関わっています。
by lamer (2008-12-05 10:10)
xml_xslさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-12-05 11:13)
lamerさん、こんにちは。
東映動画はすばらしかったですね。いわゆる70年代になってキャラクターものの時代に変わった頃から、私は東映動画を見なくなったのですが、それまでのものは懐かしい作品ばかりです。
本当に優秀な人たちがたくさん育ちましたから、映画分野以外でもいろいろな場所で活躍されていると思います。技術を持つ方は強いですからね。
「三丁目」に関与された方も、ますますご活躍の場を広めて欲しいと思います。背景にしてもセットにしても、これからはCGとのからみでイメージ通りの世界を作ることができるのですから、すばらしいお仕事だと思います。
by sig (2008-12-05 11:23)
こんにちは。
東映のアニメは、小学校でも盛んに上映されました。わたしの小学校にやってきたのは、「白蛇伝」と「安寿と厨子王丸」、そして「シンドバッドの冒険」だったでしょうか。授業中であるはずの時間に、先生ともども体育館へ集まって鑑賞した記憶があります。小学校低学年のころでした。
あのころは、授業の時間をつぶして映画会を催すゆとりが、小学校にはあったんですね。
by ChinchikoPapa (2008-12-05 13:45)
ChinchikoPapaさん、こんにちは。
では、東映動画はおなじみだったのですね。学校で観られたなんて、うらやましいですね。昔は文部省選定映画は学校ぐるみで観に行ったり、学校で観たりしていたのですよね。
すべての要素を含む映画は指導次第で優れた総合科目になりうるばかりでなく、格好の情操教育になったはずだと思います。
by sig (2008-12-05 16:29)
吉之輔さん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-12-05 16:30)
こんにちは
僕はアニメも漫画も一緒になっているような人間ですが
アニメ 絵 良いなと思うのは現実離れした作品です
僕はSF映画がダメなのですが アニメなら良いなあと思います
と言っても映画館で観たアニメ 片手の指の数も無いかもしれませんが
by いぬ (2008-12-05 17:14)
チョコシナモンさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-12-05 17:46)
いぬさん、こんにちは。
アニメには確かに描写が過激で子供に見せたくないものなどいろいろありますね。刺激の強すぎる作品は私も好みませんが、きれいなもの、情緒的なものなど、アニメならではの描写があります。
子供の時にいい作品に出会うということが大切なのかもしれませんね。
それが今では逆のようですね。
by sig (2008-12-05 17:51)
kemmさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-12-05 17:52)
東映動画がこんなにすばらしかったのかということ、はじめて知りました。
アニメはディズニーと思っていた、無知を恥じました。
それにしても、sigさんは幅広い教養の持ち主なんですね。
脱帽。
by OMOOMO (2008-12-05 20:29)
白蛇伝は観たような、定かではありませんが、、東映の時代劇は映画館に
良く観に行きましたよ。
小・中・高校と、先生の引率で観に行く機会が結構あったように思います。
当時の方が、先生・生徒にもゆとりがあったと思われます。
かつてはセル画を1枚・1枚書き、完成までには相当数のセル画が描かれた事でしょう。
子供の頃、1枚ずつに少しずつ変化のある絵を描いて、パラパラ漫画にして
遊んだ事もありました。
by puripuri (2008-12-05 20:54)
OMOMOさん、こんばんは。
東映動画はこの後、「ルパン三世」や「銀河鉄道777」などの大ヒットを飛ばしていくのですが、そのあたりになるとちょっと初志とは違うような気がしてくるのですが・・・。さいわい私はその前に東映動画とさよならした訳です。
私の本筋はディズニーの方で、来年あたりからそろそろ始めなくちゃ、と思っておりますので、どうぞよろしくお願いします。
by sig (2008-12-05 21:15)
puripuriさん、こんばんは。
学校ぐるみの映画観覧、楽しみでしたね。勉強しなくていいし、面白いし、楽しいし・・・。でも、それも大事な勉強なんですよね。
puripuriさんはアニメにもお詳しいですね。お兄さんの影響でしたか、パラパラ漫画など結構おやりになったんですね。女の子では珍しかったのでは・・・。
by sig (2008-12-05 21:20)
いえいえ詳しくもないのですよ。そのような事をして遊ぶか、外で遊ぶが、、
貸し本屋で漫画を借りて来るか・・・勉強はしなかったですね。
長兄が工業高校電気科へ行っていたので、ラジオを分解しているのを傍で
見ていて、あれは何?コンデンサーでしょうか?
油紙と銀紙がくっついているのを面白くて剥がしたり、次兄と鉱石ラジオを
組み立てたり(ロケット型だったような、、小さくても聞こえました)
兄達はアマチュア無線をするので、CQCQと口真似をしたり。
そんなのでメカモノが割と好きなんですよ。 姉はNO、、
でも、だんだんと頭が鈍くなって来ました。
by puripuri (2008-12-05 22:20)
puripuriさん、こんばんは。
やっぱりpuripuriさんは二人のお兄さんの影響を受けて、男の子の遊びを楽しんでいらっしゃったようですね。男の子の遊びって、女の子と違う面で結構創造的だったりして、楽しかったでしょう。いいご経験をされたと思いますよ。
by sig (2008-12-06 00:15)
yannさん、こんばんは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-12-06 00:16)
八犬伝さん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-12-06 16:14)
furukabaさん、こんばんは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-12-06 19:28)
どのポスターも見覚えがあります。
生まれてもいないし観てもいなかったのになぜでしょう??
それほど有名だということですね。
白蛇伝、みてみたいです。
私は「999」世代ですから.....アニメといえば、東映まんがまつり♪
小学校の側に映画館があったので、割引券を学校で配ってくれていました。
by みかっち (2008-12-06 22:23)
こんばんは、みかっちさん。いつもコメントありがとうございます。
ここに掲げたポスターの作品を含めて、東映動画の初期の作品は1秒24枚の手書きによる緻密なフルアニメであり、物語の展開も含めてとても完成度の高いものです。特に「安寿と厨子王丸」など、まさに絵巻物を紐解くような見事な描写です。機会があれば初期の作品をぜひご覧になることをお勧めします。
70年以降は次第にセル画の枚数を間引いて描写が省略されるようになります。「999」や「まんがまつり」はそうした作り方です。ギクシャクした動きの方がアニメらしいという人もおりますが、私は作品の内容で決めることだと思います。
ところでディズニーアニメはお好きですか? 来年からここで書き始めようと思っております。昭和時代に公開された作品についてですけどね。W
by sig (2008-12-06 23:26)
マロンさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-12-07 09:16)
たねさん、こんばんは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-12-08 18:32)
ヨタ8改さん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-12-10 10:27)
kontentenさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-12-10 10:28)
Ja-Kou66さん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-12-10 10:28)
懐かしいな、白蛇伝。小学校の講堂で見たような・・・
森繁久弥、宮城まり子さんが声優だったのですね。
この辺りの映画が今、DVD化されているので、少し集めてますよ♪
by 路渡カッパ (2008-12-10 23:16)
路渡カッパさん、こんばんは。
「白蛇伝」公開からもう50年ですものね。私の大好きな映画なんです。
路渡カッパさんも映画がお好きなようですね。
アニメですか? それとも日本映画でしょうか。洋画でしょうか。
by sig (2008-12-11 00:23)
mitsuさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-12-13 08:47)
ご無沙汰しました
やっと少しづつ時間が取れる様になりました
今やアニメと言えば宮崎駿と言うイメージが出来上がっている様に思いますが、少年時代見たアニメの方が鮮明に覚えている気がします
僕が見たのが主にテレビですけど・・・
鉄腕アトムや鉄人28号世代です
明日以降、又ゆっくり拝見させて頂きます
by Qoo (2008-12-15 09:09)
Qooさん、こんにちは。
暮れは演奏活動でご活躍と思います。
「鉄腕アトム」「鉄人28号」は私がもうアニメを卒業した後ですね。
ただ、ディズニーについてはこれからこのブログで取り上げていくテーマになっています。
アニメの音楽も、例えばディズニーの場合は結構ジャズなどにもアレンジされて演奏されていますね。Qooさん、どうでしょう。やってみたら面白いかも。
by sig (2008-12-15 11:40)
whitesoxさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-12-20 09:35)
『白蛇伝』は私の大好きな作品です。1960年、北海道で小学校一年生の時に、見ました。空気が悪かった為か、気分が悪くなり、楽しい映画だったという記憶がなかったのですが、数年前にDVDが出たのを兄が購入し、それを何度(7回位)も見ました。素晴らしい作品だと思います。
『眠りの森の美女』は、内地に引き上げてきた小学校2年か3年の時に見ました。素晴らしい作品だと思いました。森の中で小鳥と歌うオーロラ姫、城壁の質感、茨の形、魔女の竜への変身、白馬に跨った王子、すべてが子供の私を魅了しました。
by アヨアン・イゴカー (2009-01-02 14:40)
アヨアン・イゴカーさん、明けましておめでとうございます。
木馬座時代の制作現場のお話を興味深く読ませて頂きました。演目そのものはもう大人になっておりましたので見せていただいたものはないのですが、うんと初期の藤城清治さんの「海に落ちたピアノ」の影絵は小学生時代に見たことがあり、そのあまりの美しさに魅了された覚えがあります。今でも藤城清治さんの展示イベントがあるとたいていは見に行っております。その時の図録を時々取り出して眺めております。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
by sig (2009-01-02 15:36)