これだ! これが欲しかったんだーっ! [小型映画ミニミニ博物館]
これだ! これが欲しかったんだーっ!
50年の念願叶う。今、紙フィルム映写機 [前編]
こんにちは。「時計仕掛けの昭和館」館長兼キュレーター(学芸員)のsigてす。ついこの間、ネットサーフィンをしておりましたら、ハンズネット(東急ハンズ)で大変なものを見つけてしまいました。みなさんにとってはどうでもいい物かも知れないのですが、私にとっては一大事。何と、紙フィルム映写機の広告があったんです。私がまだ小学生の頃、おもちゃの映写機を買ってもらえなくて、もっぱら手製の紙フィルムで遊んでいたことは、以前このブログでお話ししましたね。今時「紙フィルム映写機」を売るなんて学研しか考えられません。そしたらやっぱりそうでした。
学研という出版社は、みなさんも「子供の科学」という本でおなじみだと思います。私たちの子供の頃は、雑誌にいろいろと組立て付録が付いていたものですから、「子供の科学」は例えば同じカメラでも、紙製ではなくてそれよりも材質がしっかりしているもの、実用に耐えるもの、そういうレベルでキットの仕様や品質をアピールしていたと思います。
で、この紙フィルム映写機もそうした子供向けに売られているのかと思ってよく見ましたら、何と「大人の科学 Vol.15」というんです。へえー、大人のホビーなんだ。ということで合点がいきました。これは大人が童心に帰って少年時代を懐かしみながら組み立てるノスタルジック玩具なんですね。とすればまさに私のために用意されたものではないですか。それが手に入るならば、ぜひとも我がブログの「小型映画ミニミニ博物館」のシンボルとして当館のコレクションに加えたい。また、これを記事にしたら「小型映画ミニミニ博物館」オープンの弁になりそうだ。やったーっ。私がその広告を見て小躍りして詳細を確かめてみたことは言うまでもありません。
ところがこの本は2007年4月にすでに発売されていたんですね。気付かなかったなあ、私としたことが、何でかなー。このたぐいのシリーズ本は、書店の店頭から外されても、ホビーショップやこのようなネットで手に入れることができるんですね。よく見たら「残り7部」。こりゃ大変。これはもう希少価値。レアもレア、プレミアムものです。では価格は? 2300円。安~い! 買うしかない。あせりまくってその場でオーダーしましたよ。 宅配便の送料込みで2825円。新宿の東急ハンズまで買いに行ったら電車賃は往復560円掛かりますから金額的にほとんど差はないし、新宿店にこのキットが置いてなければ無駄足になります。こんなところがネットショッピングのチェックポイントですよね。
それはとにかく、4日後に届きましたよ、映写機の組立キットがぁ。ほんとは3日後に届いたはずだったんです。オーダー画面の「お届け希望時間」でなまじっか「午前中」などと指定したものだから、前日の午後に配達できたものをパスされてしまったんですね。このあたりも、家に居ることが多かったら配達時間を「いつでも」、と指定した方がいいと思いますよ。
閑話休題。現物はご覧のように本体の本とキットがいっしょになった箱型です。さっそく本の方を開いてみます。私はいつもおいしいものは最後に頂く方で…キットの箱を開けるのはそのあとで…と、こんなところからでも育ちや性格が分かるんですってね。そう、戦後生まれの私はそう育っちゃったんです。
真っ先に目に入ったのが「フィルムこそ我が人生」のタイトル。大林宣彦監督と映像史研究家・松本夏樹氏の対談です。何で私にもお声が掛からなかったのかなあ(大林監督、人間的に大好きなのに)、と思いながら更にページをめくると映画の歴史の絵解きです。なあんだ、私がこのブログでやろうとしていることを、1年以上も前に先取りされてしまっていたのかぁ。さすが学研ですねぇ。
この「大人の科学」シリーズ自体がかなりマニアックなものです。考えてみれば、日本人1億2千800万人の中で紙フィルム映写機に関心を示す人が何人いるでしょうか。1億3千万が大げさだったら、その半分の大人を対象にして何冊売れるのでしょうか。それを考えると、私自身が極めてマイナーな趣味を持っているということを自覚しておりますだけに気になるのですが、そんなに少ない人たちに向けてよくぞこうした本の出版を続けてくれているという、そのことに頭が下がります。
おそらく編集に携わっている方々は、昔からの伝統雑誌を更に発展させたいという願いもあるでしょうが、何よりも、創意工夫・創造のプロセスから生まれるわくわくするほどの遊びの楽しさ、それを伝えたい一心からではないかと思うのです。編集者自身が、自分たちで実際に試作品を作ってみたりして、面白がって遊びながら本作りをしている。その光景が目に見えるようで、その熱っぽさ、楽しさがそのまま伝わってくるからこちらも楽しくなるのだと思います。
この本を手にして思うのですが、このキットが50年前に発売されていたら、私は真っ先に飛びついたでしょう。でも考えてみれば、欲しいときにそれが無かったからいいんです。欲しいときにすぐに手に入っていたら、そんなものはちょっと遊んだだけですぐにポイ。そしてそのまま忘れてしまったかもしれません。手に入れることができなかったからこそどこか頭の奥の奥に残っていて、50年も経つのにこの本を見ればすぐにまた血が騒ぎ出すんです。
さて、今や誰でも小型ビデオカメラでハイビジョンの動画を楽しめる時代になりました。その原点とも言うべきものが、実は幻灯機の時代からの「紙フィルム」であり、まだ透明なフィルムが発明される前に日本特有のアイディアから生まれたこの「反射式映写機」なんですね。温故知新。古いものから学んで新しいものへと発展させていく、こう考えると時代に逆行してみるのも面白いし、意義もあると思うんです。そもそもこのブロクはそんな発想から生まれたのでした。
今回は、本体である本のさわりとキットの完成写真をご紹介したに留まりましたが、では反射式映写機とはどのような仕組みになっているのか。ちゃんと映るのか。本当に動くのか。そのあたりのことは次回の「後編」でお伝えしたいと思います。
大人の科学マガジン Vol.15 ( 紙フィルム映写機 ) (Gakken Mook)
- 作者:
- 出版社/メーカー: 学習研究社
- 発売日: 2007/03
- メディア: ムック
これぞ動画の原点。紙フィルムの絵が動く [小型映画ミニミニ博物館]
小型映画ミニミニ博物館-2
これぞ動画の原点。紙フィルムの絵が動く
50年の念願叶う。今、紙フィルム映写機 [後編]
さて、当博物館オープン記念の内々のお祝いとして購入した「大人の科学Vol.15/紙フィルム映写機」ですが、封を切る手ももどかしく、早速組み立てキットを開封したことは言うまでもありません。発泡スチロールの枠にきれいに収まったプラスチックの部品や金属パーツは細かいので無くさないように注意しなければなりません。まずは本紙の組み立て説明図のページを開いて、順序を確認しながらそのつど必要パーツを一個ずつ取り出して組み込んで行きます。これは昔プラモデルを作った経験からで、分かったつもりで自分勝手に進めると、あとでやり直しが利かなくなることがありますから、決して早まってはいけません。
●光源は単三2本の豆電球。
ギアはハンドルの回転と連動し、的確にフィルムを巻き取ります。
パーツは全部で25種類くらいでしょうか。だからステップごとに慎重にゆっくり進めても、2時間くらいで組み立てることができました。ちょっと手間取ったのはスプリングを使う部分です。これは2箇所あって、はめ込むのに多少のテクニックを要します。難しいかなと思った映写機の心臓部・ギアボックスは、3種類の歯車を並べてカバーをビス止めするだけで簡単にできてしまいました。
●紙フィルムにはミシンが入っていますから、きれいにテープ状にすることができます。モノクロとカラーのフィルムが9本も付属しています。
ところで肝心の部分。この映写機の最大の特徴は、何と言ってもフィルムが紙だということです。私たちの常識である透明のフィルムを使わないで、普通の紙に印刷された、あるいは自分で手書きした動画を投影することができる、それがこの紙フィルム映写機なんですが、フィルムに光を通さずに、そんなことができるのでしょうか。そこが「大人の科学・紙フィルム映写機」の勘どころです。
●光源の豆電球の光をミラーで反射させ、左の溝を通るフィルムの画像を照らし、その反射光をレンズで投影します。
私たちが映画を観るときには、フィルムのうしろに光源があって、フィルムを通過した光の濃淡、色彩をレンズに収束させて、直接、スクリーンに投影したものを見ています。これが「透過光式映写機」です。これはフィルムが透明だからできるのです。これだけでも透明フィルムの発明が映画の発達を大きく変えたということが推測できるのですが、そのお話についてはいずれ「映画技術おもしろ発達史」のカテゴリーで触れるとして、ではそれ以前はどうしていたのか。それがこの「反射光式映写機」だったんですね。この方式は光源で照らし出されて反射した画像をレンズで集めて投影するというものなのです。
従って当然ながら、透明フィルムに比べて画面が暗いということが難点になります。もちろん優れた点もたくさんあります。まず、コストの面ですね。透明フィルムよりも紙のほうが安上がりなのは当たり前。それに、印刷すれば作れるのですから現像の必要が無い。おまけに、当時まだ開発されていなかったカラー映画の向こうを張って、色付きの動画を楽しめる。しかも、昔のフィルムは可燃性で爆発の危険がありましたが、紙製なら安全、という具合です。
ただ、画面が暗いために大きく拡大できないという点はいかんともしがたく、もっぱら裕福な家庭の児童のおもちゃとして珍重されていたようです。この反射光式映写機で動画を楽しんだのは大正から昭和の初め頃まででしょうか。それ以前、つまり明治の半ばに映画が伝わるまでは、もっぱらこの方式は幻灯機に用いられていたものなんですね。
●左/フィルム送り機構 右/1コマ掻き落とし機構
さて二番目の特徴は、フィルム送りのメカニックです。手回し映写機ですからフィルムの運行はクランクを回して手動で行うのですが、問題は連続した絵を動いているように見せるための間欠運動の部分です。これが実に見事にできております。フィルム自体は画面と画面の中間に開けられた穴(パーフォレーション)に、回転ハンドルに直結したスプロケットの突起が噛み合って運ばれるのですが、その突起と連動してフィルム送り板が回転して、きっかり1コマずつ順繰りに引き下げられるようになっております(動画参照)。このフィルム送り板が1回転する瞬間、画面はレンズの前に停止します。それが連続して行われるために残像効果で絵が動いて見えるという訳です。実によく考えられたものですね。
再生できない場合、ダウンロードは🎥こちら
再生できない場合、ダウンロードは🎥こちら
●上/フィルム送り機構
下/1コマ掻き落とし機構…1コマが一瞬停止するところがポイントです。
とまあそういういう具合で、映写機自体は難なく出来上がったのですが、一番てこずったのはフィルムでした。この映写機には無声映画時代のモノクロアニメから現代アーチストの手によるアーティスティックなオリジナルフィルムまで9本ものフィルムがオマケとしてついていて、映写機のハードに対してフィルムというソフトも重要という学研の気遣いがとてもうれしく感じられるところなんですが、幅19ミリ、1コマの面積は19×12ミリ、1本の長さが533コマで手回し上映時間にして約1分。それが1枚のシートになっていますので、1本ずつ切り離してつながなくてはなりません(写真参照)。
幸いミシン目が入っているのできれいに切り離せるのですが、問題はパーフォレーションの穴。これは楊枝で1コマずつ破いたあと、つめの先で1個1個取り去らないと使えません(写真参照)。この作業がいちばん時間が掛かりました。
●1本あたり533個の穴を一つずつ楊枝と爪先で抜いていきます。
けれど、ものは考えよう。BGMを聞きながらやってもいいし、鼻歌交じりでやってもいいし…。けれども私は、音楽も聴かずひたすらその単純作業に没頭しました。すると集中力がもたらした効果といいますか、不思議なことにとても気持ちが澄んできたんですね。そのとたん、私が少年時代に作った手書き紙フィルムの感触が蘇ってきたんです。それは細くテープ状に切った紙フィルムを両手で巻いたあの感触でした。長時間にわたる本当に細かい作業。でもその時間、私は少年時代の自分と対話していたのです。それはとても充実した至福の時間を私にもたらしてくれたのでした。
再生できない場合、ダウンロードは🎥こちら
●豆電球の光源で名刺大に投影したものを、こちらからビデオカメラで撮影したものです。超高輝度LEDライトを使うと、格段に明るく映るそうです。
今回は技術的な事柄が多くて退屈されたかもしれませんね。でも、一応「博物館」を標榜しているものですから単なる見世物では済まされない訳でして……。ということで当館は、この紙フィルム映写機をコレクションの目玉の一つに加えさせて頂くことにして、ほかの8ミリカメラや映写機といっしょに展示棚に並べることに致しました。これからはそれらの機材を一つずつ紹介していくことになります。それは今日のデジタルによるビデオ映像に至るまでのフィルムの時代を遡ることになります。「小型映画ミニミニ博物館」の次回からは、時代を平成デシタルから昭和アナログに巻き戻して、小型映画の発達をご覧頂くことに致しましょう。
むかし、「8ミリ映画」があった。 [小型映画ミニミニ博物館]
小型映画ミニミニ博物館―3
むかし、「8ミリ映画」があった。
どう違う? ビデオと8ミリ
●「小型映画ミニミニ博物館」の展示品の一部
スポーツの秋、カルチャーの秋ですね。地域の文化祭、芸術祭にはじまって、子供たちの学校や町内の運動会、あるいは音楽・舞踊・コーラスの発表会。そしてまた秋は結婚のシーズン…と毎週のようにイベント続き。ビデオをお持ちの方はあちこちで撮影を頼まれて、大忙しではないでしょうか。今からおよそ30年ほど前の親御さんたちは、同じことを「8ミリカメラ」を使ってやっていたのでした。
この「小型映画ミニミニ博物館」のカテゴリーでは、戦後の復興が功を奏し、日本の経済が右肩上がりの成長を見せ始めた頃に人気を呼んでいたアマチュア用小型映画の代表格「8ミリ映画」について、当館に展示しているカメラや映写機を順次紹介しながら進めていこうと思います。展示品目は私が実際に使ってきたものと、一部当館に寄贈を受けたものです。機種は決して多くはありませんが、これをたどると一応8ミリ映画の進化の過程が分かるはずです。
●左/現在のビデオカメラ SONY ハイビジョン・ハンディカム CX12 (2008)
右/初期の8ミリカメラ CINE KODAK 8 MODEL 60 (1930年代)
左右のカメラには、およそ80年の開きがあります。
●ビデオはデジタル、8ミリ映画はアナログで記録
さて、「映画」と呼ぶからには、スチル写真…「静止画」ではなく「動画」です。動画は今ではビデオカメラだけでなく、ケータイでもデジカメでも、またデジイチと呼ぶ最新鋭のデジタル一眼レフカメラでも撮れる時代になりました。これらはすべてコンピュータに端を発したデジタル技術のなせる業ですね。そしてパソコンに親しんでおられるみなさんなら世代を問わず、それらの機材で写した写真や動画を、パソコン上で実に手際よく処理しておられます。これは「8ミリ映画」の時代から見たら考えられない大進歩です。
今回は先ず「8ミリ映画」とはどういうものかをお話したいと思いますが、ビデオとは全く異なる部分がありますので、もしビデオをお使いならそれと比べながら、あるいはパソコン編集をなさっている方はそれを想像しながら聞いて頂きたいと思います。
●初期の8ミリ映画は、モノクロ、サイレント、手動撮影
最初、つまり1950(S25)年頃の「8ミリ映画」のカメラは標準レンズが1本付いているだけ。それが2本になり3本になり、ズームレンズを装着するようになったのは、それから約10年後でした。
撮影には8ミリ幅のフィルムを使い、シャツターを押すと連続写真として記録されます。
1本のフィルムの長さは撮影時間にしてわずか3分ちょっと。しかも初期の8ミリカメラの動力源は鋼のゼンマイ(スプリング)で、いちいち手で巻き上げてから撮影します。1回の巻上げで30秒くらいしかもちませんから、1カットごとに巻き上げを繰り返すというやり方でした。ですが、これは間もなく単三電池による電動式に代わります。
フィルムは初期にはモノクロだけでしたが、やがてカラーも登場します。けれども高価な割に発色は十分とはいえないものでした。また、初期には音声もなく、サイレント(無声映画)だけでした。
それに比べるとビデオは初めからズームレンズ付き。バッテリー駆動で8ミリに比べたら撮影時間はまさに湯水のごとく撮り放題。しかもカラーで同時録音が当たり前ですね。
●8ミリフィルム3種 上/スーパー8(コダック)
左/ダブル8(16mm幅の生フィルムを往復撮影後、中央から断ち、8ミリにするもの)
右/シングル8(富士フイルム)
●特殊効果は、勘でカメラを操作して撮影
ところで、8ミリ映画の楽しみの一つに、本物の映画のように仕上げたいという願望があります。例えば「タイトルがなきゃ、映画じゃない」。そう考える人たちは同時に、場面の始めと終わりを黒フェードにしたい(フェードイン/フェードアウト)、前のカットにダブらせて次のカットを始めたい(ディゾルヴ)、二つのカットを重ねて回想シーンを作りたい(オーヴァーラップ)…など、まさに映画ならではの表現をやってみたいのです。それが昂じると、ドロンと消えたり現れたりの忍術映画や、一人二役のトリック撮影などをやりたくなります。
こういった高度な技法は、映画会社では現像所で「オプチカルプリンタ」という特殊な装置を使って光学的な処理を施して作るのですが、8ミリ映画ではなんと、それを撮影の時点でやらなければならないのです。
これらのテクニックは、撮影しながら「絞り」を操作したり、二重写し(多重露光)にするために一回撮影したフィルムを巻き戻す必要があります。そのためには「絞り」が完全に絞り込まれる(絞り切り機構)ことや、フィルムの巻き戻しができる(巻き戻し機構)ことがカメラ側に要求されます。こうした機構を備えた機種は当然高価なものとなります。また、画面が絶対にぶれないようにがっちりとした三脚も必要ですし、何よりも撮影時の操作は完全に勘に頼るしかないということ。これが思いの他大変なのです。
この辺が、ビデオのパソコン編集ならお茶の子サイサイでこなせる部分ですよね。
●現像上がりを待たないと画面は見られない
このように苦労して撮影を済ませたフィルムは、現像しなければ見られません。出来上がったフィルムを光にかざせば画像を肉眼で確かめられる、というのがアナログの良いところでもあるのですが、現像所からようやくフィルムが届いても、NG画面や露出の失敗があれば、その部分は泣く泣くカットしなければなりません。
ビデオならその場で確認できる上、NGならその上から録画し直せば済むことですね。
●削って、塗って、重ねて、押して…のフィルム編集
映画づくりの要は編集ですが、これがまた「8ミリ映画」では手作業100%。編集には画面を確認するための「エディター」と、フィルムをつなぐための「スプライサー」を使いますが、2つのカットをつなぐのは「フィルムセメント」という揮発性の接着剤です。
接着剤がよく付くように両方のフィルムの接合箇所をヤスリで削り、そこに接着剤を塗って、フーフーと息を吹きかけてある程度液を飛ばしてから、2つのカットを重ねてスプライサーで押し付け、乾くまで15秒ほど待ちます。これでようやくカットがつながります。
このあたりも、もしあなたがパソコン編集の経験者なら、たった1タッチで済む作業なのに…ということがお分かりでしょう。
●8ミリ映画用エディター(編集機)
さて、「8ミリ映画」のいかにもアナログ的な特徴、お分かりいただけたでしょうか。8ミリ映画もそうこうしているうちにカラーが主力となり、やがて磁気トラックによる同時録音も出来るまでに発展します。
ところが皮肉なことに、それはちょうどビデオ時代の到来と重なりました。1980年頃から8ミリ映画は次第にその座をビデオに譲り、およそ30年に亘った8ミリフィルムに画像を記録する時代は幕を下ろすことになるのです。
8ミリ映画の3つのタイプ [小型映画ミニミニ博物館]
小型映画ミニミニ博物館-4
8ミリ映画の3つのタイプ
●ビデオカメラ選びを迷わす、多彩すぎる記録方式
あちこちで紅葉の便りを聞くいい季節になりましたね。もうビデオをお持ちの方はとにかく、「今年こそハイビジョンの高画質で紅葉を…」とお考えの方も多いのではないでしょうか。その時、さあ困った。一体どれを選べばいいのか。
とにかく最近のビデオカメラは種類が多すぎますね。ちょっと前まで、ビデオは「DVテープ」を使うタイプだけだったんですね。それが最近は「ハードディスク(HDD)」や「メモリーカード」、「DVD」や「ブルーレイ」と呼ぶディスク仕様までが目白押し。最近ではハードディスクとカードの両方、あるいはカードとDVDの両方の機能を搭載したハイブリッド型と呼ぶタイプまで出てきましたね。まるで現在考えられるデジタル記録のメディアを総動員した形ですが、これだけ種類が多いとどの方式がいいのか迷ってしまいますね。
カメラ選びはスチル、ビデオを問わず、自分がどこまで取り組もうとするのか、これに尽きると思います。芸術写真を、と思えばやはりコンデジ(小型デジカメ)よりはデジイチ(デジタル一眼レフ)の方が表現の可能性が高くなりますし、ビデオで言えば、撮影したものをすぐに家のテレビで見たい、とか、撮ったものに簡単なタイトルと音楽を付けてDVDにして友だちにプレゼントしたい、とか、やっぱり自分はきっちりとした作品を作るんだとかという活用レベルを検討すれば、おのずと選ぶべきカメラのタイプが見えてくるはずですよ。
●ところで8ミリ映画は…
その点、昔は簡単でした。アマチュアがホームムービーを撮影する場合は、8ミリ幅のフィルムしかありませんでしたから。これが「8ミリ映画」と呼ばれるものですね。日本で8ミリ映画の人気が出始めたのは1950年代の半ば(昭和30年代初め)頃からなんですが、その頃ビデオは、まだようやくテレビ局が番組の録画用に使い始めたくらいの時代でしたでしょうか。
●「弁当箱」と呼ばれた「シネコダック8」。望遠レンズとの交換もできる。
●左/レンズ下の絞りガイド。針を合わせるとレンズの絞りに連動。
●右/ファインダー。見た目と写る範囲はズレるので、見当をつける程度のもの。
その8ミリ映画を知っているという人も、実は始めた段階によって、ずいぶんちがうイメージをお持ちです。「フィルムを入れ替えるのが大変でね」という方は最古参。「ああ、あのマガジン・ポンね」という方は8ミリ時代の半ばに参加された方。そして「音では苦労しましたよ」という方は凝り性の大ベテランか、8ミリ時代の後半に始められた方です。これを要約すると、最初はフィルムの入れ替えがあった。次にマガジン・ポンが現れた。そして最後に音が付いた、ということになります。これが実は8ミリ映画の歴史の大筋なんですね。
●左/ダブル8 …16ミリの生フィルムを利用したもの
中/シングル8…8ミリ幅でマガジン入り(富士フイルム方式)
右/スーパー8…8ミリ幅でマガジン入り、コダック・サウンドフィルム
●最初は16ミリフィルムを利用した「W8」方式
デジタルでなく、フィルムカメラのフィルム幅は何ミリでしょうか。35ミリ。正解です。これは実は映画のフィルムをそのまま流用したものなんですね。長いフィルムを24枚撮りとか36枚撮りとかに切り売りしているわけですね。
映画フィルムではこの他、小型映画と称されるポピュラーな16ミリという規格があります。最初の8ミリ映画はこの16ミリの映画フィルムをソックリ利用したのです。
●装填の際、頭の部分は感光。
16ミリフィルムは1923年に米国のコダック社が白黒の反転フィルムとして発売したものです。これを8ミリに利用した方式は「W8(ダブルエイト) 」と呼ばれています。(本来の呼称はレギュラーエイトなのですが、のちにシングル8の出現によってダブルエイトが一般的な呼び名になりました)
16ミリフィルムには、カメラ(当初は撮影機と呼んでいました)や映写機に掛けるために、1コマ間隔にパーフォレーションと呼ぶ穴があけられています。この穴を半分の間隔にして、1コマを1/4の面積として利用すれば、小型のホームムービーを実現できるのではないか、と考えたのです。それならば画面の縦横比も変わらないし、画面は小さくなるけれど家庭で見るには十分だろう。第一、16ミリに比べて1/4のコストダウンだから、これで一気に8ミリブームを起こせるぞ、という訳です。
「W8(ダブルエイト)」(右)とは
左/16ミリ、トーキー映画のフィルム。トーキーでは穴は片側だけ。
右/16ミリ無声フィルムは両側に穴があり、中間に穴を増やして1駒分を4駒として
使う。
撮影後に現像所でフィルムの中央から縦に裁断し、穴の側を揃えて1本の8ミリ
にして返送してくれる。
で、具体的には穴の間隔を1/2にした両側パーフォレーションの16ミリフィルムを生産する。ユーザーはそれを専用のカメラに入れ、まず片側を撮影した後、フィルムリールを裏返して反対側を撮影する。つまり往復撮影する訳です。
それを現像すると、往きと返りで画像は逆向きになりますが、現像所ではそのフィルムを縦に真ん中から裁断して、パーフォレーションを同じ側にした1本の8ミリフィルムに仕上げてユーザーに返送する、というやり方です。実にすばらしい着想ですね。
こうして米国のコダック社によって1932年に「W8(ダブルエイト)」方式の8ミリ映画が誕生したのでした。当然、カメラも発売されました。
ただ、やはり高価であったことと、間もなく第二次世界大戦が勃発し、本当に普及するのは戦後になってからでした。ここにご覧頂きます「シネコダック8 モデル60」は、おそら1930年代の終わり頃に発売されたと思われるW8カメラの例です。
●「シネコダック8 モデル60」の内部。左のドラムの中にゼンマイがあり、その力で駆動する。
再生できない場合、ダウンロードは🎥こちら
再生できない場合、ダウンロードは🎥こちら
■諸元
名称 CINE CODAK EIGHT model 60
メーカー コダック(アメリカ)
発売年度 不明 1930年代後半と思われる
タイプ w8(ダブルエイト)
音声 サイレント
駆動方式 スプリング式 最大25秒
レンズ kodak Anastigmat F1.9 13mm
特長 レンズ交換可能
絞り指標と絞りが連動
発売時価格 不明
シネマスコープなら、何を撮る? [小型映画ミニミニ博物館]
小型映画ミニミニ博物館-5
なら、何を撮る?シネマスコープ
映画づくりの楽しみが、みんなの手に
●「ヤシカ8 T2」のみが可能にした、画面縦横比1:2のシネスコ映画上映イメージ写真
こんにちは。「昭和館」館長兼、当「ミニミニ博物館」の学芸員でもありますsigです。この「小型映画ミニミニ博物館」は、およそ30年ほど前に姿を消してしまった「8ミリ映画」についてのコーナーです。
さて、カメラ業界におけるメーカーの浮き沈みは今に始まったことではありませんが、今日ご紹介するカメラのメーカーも、悲しいことに現在は存在しておりません。
ヤシカという名前を聞いてすぐに思い出していただけた方は、もう悠々自適のご年配。昔鳴らした8ミリマニア、あるいは大ベテランということになると思います。
●8ミリの初期、W8の名機「ヤシカ8 T2」
ヤシカは1983年10月に京セラに吸収合併されるまでは、長野県諏訪市の精密機械生産に最適な環境の中で、8ミリ撮影機(カメラ)や映写機をはじめスチルカメラにおいても数々の名機を生み出しておりました。私の印象では、機能が豊富で良質の割には価格がリーズナブル。そして何よりも、ユーザーが欲しがる機能をよく理解した製品づくりをしていたという意味で、親近感を抱ける会社でした。
そこで今回お話したいのは、「ヤシカ8 T2」というダブルエイト・カメラです。
ダブルエイト(W8)というのは前回お話しましたように、16ミリフィルムを片側ずつ往復撮影する方式ですね。このカメラの発売は1957(S32)年で、この年は「神武景気」という言葉で言い表されるように、とても景気が良かった年でした。テレビはまだ白黒でしたが、「名犬ラッシー」「ヒッチコック劇場」「アイ・ラブ・ルーシー」などが大人気で、人々の映像に対する欲求の高まりが8ミリ人気の後押しをしてくれた時代でした。
●上左/持ち替える必要なく連続的に巻ける、ラチェット式ぜんまい巻上げハンドル
●上右/「ヤシカ8 T2」のイメージガール、東宝スター・白川由美さん
●下左/W8の生フィルム。装填時に感光する部分は、黒味リーダーとなる
●下右/W8現像直後のイメージ。 往復撮影のため左右の画面は逆行している
●オプションの3倍ズームレンズが小型映画の未来を予告
ダブル8は、当初は「エルモ」を筆頭に、今はやはり消滅してしまった「シネマックス」「サンキョー」「アルコ」などが参入し、間もなく「キャノン」「ニコン」「フジカ」「コニカ」なども揃い踏みとなって市場は活況を呈します。そうした乱戦模様の中で、各社はこぞって自社製品の性能をアピールする訳ですが、その中で極めてユニークな特徴を打ち出していたのがヤシカではなかったかと思います。
この時代の8ミリカメラは、各社とも標準と望遠の2本のレンズが組み込まれたターレット盤を回して画角を切り替えるタイプでしたが、「ヤシカ8 T2」にはオプションで、当時としては珍しい3倍ズームレンズが用意されていました。このレンズを装着してズームダイヤルを回すと、クランクがファインダーに連動してズーム効果を確かめることができました。カメラの価格の半分ほどもする高価なものでしたが、「これからの小型映画も、間もなくズームレンズの時代になるんだ」という、あこがれと夢を持たせてくれるものでした。
●左/レンズを標準・望遠と切り替えるターレット部
右/ズームレンズを装着。中央のダイヤルを回すとファインダーもズームに連動
●ワイド映画をお茶の間で
ところで1957年といえば、映画の大部分はシネマスコープの横長大画面になっていました。ハリウッドではテレビに向かおうとする観客をスクリーンに呼び戻そうと必死になって大型画面の開発を続け、「シネラマ」などという途方もない大画面も出現し始めていました。ヤシカでは、そのような大画面も家庭で楽しめるようにしてあげたい、と考えたのでしょうね。なんと「ヤシカ8 T2」にシネスコ機能を付けてしまったのです。
シネマスコープはワイド画面ですがフィルムの幅が広いのではありません。カメラのレンズの前に実際の風景を縦に圧縮して撮影できる「アナモルフィック・レンズ(歪像レンズ)」というものを付けて普通のフィルムに撮影します。そして上映するときには映写機のレンズにそれを付けると、元の撮影したときと同じ広い情景を映し出す、という仕組みなのです。
●上/シネスコ用レンズを装着した「ヤシカ8 T2」と撮影画像(イメージ)
下/画面縦横比1:2のシネマスコープ上映画面(イメージ)
画面の縦横比を「アスペクト比」と呼んでいますが、昔の映画やテレビ画面は「スタンダード画面」と呼ばれて「アスペクト比は3:4」と言い慣わされています。これは言い換えると縦1に対して横1.3にあたります。それを「ヤシカ8 T2」ではアナモルフィック・レンズを付けることによって1:2のワイド画面をお茶の間で楽しめるようにしたのでした。
ちなみに本当のシネスコは1:2.35でもっと横長です。また、シネスコサイズはデジタルビデオに変わった現在でも、どのメーカーも未だ手がけておりません。(ちなみに、今日一般的なワイドとされる9:16のビスタサイズは縦横比1:1.85になります)
●映画好きの映画づくり、そのための充実機構
「ヤシカ8 T2」にはこの他にも、プロ級のテクニックを駆使できるいろいろな機構が詰まっていました。
ひとつは1コマ撮影ができること。これでアニメーションが作れます。
また、アイリス(絞り)の絞り切り機構。これは画面を完全に真っ暗に出来るので、フェード・イン/アウトが可能です。他社ではこの機構は高級機にしか付いていませんでした。
また、フィルム巻き戻し機構も付いていて、絞り切り機構でフェードアウトしたあと、5秒ほど巻き戻し、次にフェードイン撮影することによってディゾルヴもできました。
それから撮影コマ数がとにかく豊富。1秒64コマという高速度撮影(通常は16コマ)で4倍のスローモーションが可能。反対に1秒8コマで実際の2倍の動きを作ったり(微速度撮影)、更にはテレビ画面をブラさずに写せるTVモード(1秒15コマ)までありました。
また、カメラを駆動させるゼンマイ動力(スプリング)ですが、1回の巻上げで35秒持続というのは、他社と比べて一番長かったと思います。
●撮影コマ数がこれほど多様な機種はヤシカだけ
このようにヤシカでは、アマチュアでも本物と同じような映画制作が体験できる、というところに主眼が置かれていたようでした。他社では最高級機として位置づけるこれだけの専門的な機構を完璧に備えながら大衆価格を貫いた「ヤシカ」は本当にすばらしい会社であったと思うのです。
現在は誰でもビデオを回す時代です。けれども昔、8ミリ映画に関心を持った人たちは、「映画を作りたい」という明確な目的と意志を持った人たちでした。これらのマニアックな機能は、まさにそういった人たちのために検討され、磨き上げられたものだったのです。
■諸元
名称 ヤシカ8 T2
メーカー ヤシカ(日本)
発売年度 1957
タイプ W8(ダブルエイト)方式
2本レンズターレット
駆動方式 スプリング式 標準撮影(1秒16コマ)で最大35秒
レンズ ヤシノン f1.4 Dマウント
13mm(標準) 38mm(望遠) / 広角6.5mm(別売)
撮影コマ数 1.8.12.TV.16.24.32.64コマ/秒
特徴 ・交換レンズに対応するズームファインダー
・絞り込み機構によりフェード撮影可能
・フィルム巻き戻し機構により多重露光可能
・1コマ撮影機構によりアニメーション可能
・別売ヤシカスコープレンズにより縦横比1:2のワイド画面に
・露出は露出ガイドを参考にして合わせるマニュアル方式
発売時価格・本体価格不明
・ヤシノン広角 f1.4 6.5mm 7,500円
・ヤシカズーム f2.8 13~38mm 3倍ズーム 11,950円