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地獄へ片足 [あんなこと、こんなこと]

P1030925b-3.JPG あんなことこんなこと―21
高校時代 1956~1958(S31-33)-⑨

地獄へ片足
トッテツと呼ばれたローカル線があった【中】 

猛暑が少しでしのげるように今回は栃尾鉄道がらみで少しばかり涼しいお話を。
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●上、「浦瀬」から「加津保」(写真奥)へ向かう電車
●下、こんな小さな鉄橋も、雪が凍りつくと滑るので、立ったままでは渡れません。


●ドアを開けて走るのは当たり前
 
古い車両はもちろん、比較的新しい車両もドアの開閉は手動式。電車に最初に乗り込む人が手でドアを開けるのです。通学時間は通勤時間とも重なり大混雑です。練達のおじさんおばさんは、ホームから窓越しに座席に荷物を投げ入れて場所取りをするという戦争直後の風習?が未だに残っていました。学生は立っているのが当たり前なので、他の乗客の最後に乗り込みます。窓は両手で持ち上げて開ける方式です。雨でも降らない限り窓は開け放たれ、緑の風が狭い車内を適度に吹き抜けて行きます。

 
ラッシュアワーでは、私が乗車する「浦瀬」駅は、栃尾方面からの乗客ですでに満員。昇降口のドアが閉まらないほどギュウ詰めの状態で到着します。最後に乗り込むと、昇降口脇の取っ手を両手で掴んだまま乗っていくしかありません。幅はちょうど両手を広げた位の広さしかないためにそれが出来るのですが、半身は車両からはみ出したままです。まるで、車内の乗客がこぼれ落ちるのを必死で押さえているという感じです。いつものことですから、電車は当然のことのようにそのまま発車します。
 
車内からの押し出しが強いときには、身体を外に向け、取っ手を掴んだ両手に力を入れて背中で押し返して踏ん張ります。線路のカーブが急なのでかなりの遠心力がかかり、車内の乗客の重みがぐんぐんかかってくるのを踏みこたえるのは大変でした。身体を外に向けても内に向けても危険には違いないのですが、昇降口は風が当たるので夏場はなかなか気持ちのいいものでした。 

●冬の通学では雪だるま
 夏はともかく、冬には昇降口のドアを閉めるのかというとそうではありません。冬のラッシュアワーはむしろ着膨れで、ドアを閉めるどころか昇降口のふちに足を掛けるのがやっとの有様で、車内に入るなど、とてもとても。

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●デッキ付き車両の概念図 ラッシュ時には連結器の上にも立ち乗りです。

 
時々、2両目以降にデッキ付きの車両が連結されてくることがありました。ちょっと古風で、西部劇に登場するロコモティブに引かれている客車という感じが気に入っていました(車両イラスト参照)。普通の車両はホームからすぐにドアを開けて昇降できるのですが、デッキ付き車両は前後に設けられたデッキを経て車内に入る形式です。ラッシュではこのデッキも一杯です。いつもは取っ手につかまって、次の車両をつなぐ連結器の上に渡してある鉄板の上に立っていました。下を見れば線路の枕木が走り去っていくのが見えます。車両と車両の間をふさぐ幌の囲いもありませんから、雪の日は横殴りに吹き付けてくる降雪と、前の車両の屋根に積もった雪の吹き付けとのダブルパンチです。電車がスピードを増すに連れ、身動きできないほどに詰められているデッキの乗客の顔や肩は、たちまち雪に覆われて行きます。私たちも学生帽はもちろん、オーバーまで全身真っ白。まるで雪だるまのような格好で、高校最寄りの「袋町(ふくろまち)」駅に降りたものでした。 

●地獄へ片足
 高校2年生の冬のある日。雪の降りしきる夕方の出来事です。久しぶりにクラブ活動が5時に終わって、私は「袋町」駅で5時半頃の下り「栃尾」行きの満員電車のデッキに辛うじて滑り込むことができました。そう、デッキの床は凍っていたので文字通り滑り込みです。その時私はモノモライで左目に眼帯を掛けていましたが、そこで私はデッキの端に立っていた中学生時代の同級生A君と会いました。

 雪の夜はたちまち暮れて、電車が「下新保(しもにいぼ)」駅についた頃には薄暗くなっていました。この駅は無人駅で誰も降りない気配でしたが、一人の中年の婦人が車内から必死に人込みを掻き分けて出てきました。けれどデッキは満員です。そこで私とA君はホームへ降りて道を開けて上げました。
 婦人は無事に下車できましたが、なんと、そのとたんに電車が発車したのです。私たちも降りたのだと勘違いしたのでしょう。

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 私たちはあわててデッキの取っ手を掴もうとしましたが、私は片手に重い鞄、片目は眼帯で遠近感が分からず、一瞬滑って、左足をホームと車両の間に踏み入れた形で雪の中に倒れ込んでしまいました。確か貨車だと思いましたが、最後の車両が通り抜けるところでした。その時、私の後から最後部のデッキめがけて走っていく人影がありました。すぐにA君だと分かりました。A君は電車と並んで数歩走り、どうやら乗り込むことができたようでした。

 トッテツの車両は1台ごとに形式が違う。それが幸いしたのだと思います。貨車は客車よりも幅が狭かったから、私の左足は無事だったのだと思います。A君は私の無事を見届けて、電車の後を追ったのでしょう。次の電車まで30分は待たなければなりませんから。私はひとり、暮れなずむ無人駅で、降りしきる雪の中に取り残されていました。 

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●運行間隔が長いため、雪が降るとレールも隠れてしまいます。
 写真はすべて帰省の際の8ミリ映画からのコマ抜きのため、不明瞭です。

●大雪のため、休校になる日もあった 
 
この当時の冬は今よりも雪が多く、一日あるいは一晩のうちに4~50cm積もることなど珍しいことではありませんでした。ラジオで大雪の予報があり、朝からボサボサ降り続いていたりすると、電車が運休になることがよくありました。
雪の影響はトッテツに限りません。他の交通網にも影響を及ぼし、生徒の集まりが少ない場合には休校となることもあるのですが、今のように連絡網が発達している訳ではありませんから、たとえトッテツが運休でも、朝6時半ころまでに学校から連絡が無い場合には出かけてみるしかありません。

 家から学校まで雪の中を歩いていくとなると2時間近くかかるのです。
このような場合、道路は積雪で歩けなくなりますから、トッテツの線路を歩くことになります。電車は来ないので安心なのですが、途中、栖吉川(すよしがわ)に架かる長い鉄橋を渡る必要がありました。滑りやすい上、支えになるものも無く、とても怖い思いをしてようやく学校にたどり着きました。けれども学生の姿はパラパラ。他の交通機関も不通のままで生徒が集まらない、ということで、折角登校したのに休校となり、そのままUターンして帰宅しました。トッテツの運行もまだ復旧しておらず、帰りも雪の中を線路伝いに雪中行軍でした。

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コメント 17

ChinchikoPapa

こんにちは。
まるで「買出し列車」のような様子に、ビックリしてしまいました。といっても、わたしは「買出し列車」を一度も見たことがないのですが・・・。(汗) 席を取るために荷物を窓から投げ入れ、ようやく乗車したと思ったら荷物が消えていた・・・なんて話も、親の世代から聞いたことがあります。
それにしても、車輌にドアがなく、ホームをよく確認しないまま発車してしまう列車運転は、きわめて危険ですね。ほんとうに、大怪我をされずになによりでした。
by ChinchikoPapa (2008-08-08 14:20) 

sig

xml_xslさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-08-08 16:52) 

sig

yannさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-08-08 16:53) 

sig

ChinchikoPapaさん、こんにちは。
ちょっと見出しがセンセーショナルに過ぎましたが(笑)、客車だけの編成だったら、こんなおもちゃのような電車でも大怪我は免れなかったと思います。
当時は戦争直後のように屋根にこそ乗りませんでしたが、いつもラッシュはこぼれるような状況でした。鉄道マニアでトッテツを調べてくださっている方もいらっしゃると思いますが、元乗客による状況説明は珍しいのではないかと思います。
by sig (2008-08-08 17:03) 

furukaba

雪の中の通学の大変さが解かります。
昔の事とは云えのんびりとした時代だったのですね。
でも大怪我にも繋がる記事の処では 今では考えられない事と驚きです。
by furukaba (2008-08-08 18:31) 

sig

furukabaさん、こんばんは。
雪の無いところと比べて雪の深いところは、それだけでハンデを負っているのではないでしょうか。
あえて書かなかったのですが、上の話のオチがあります。
しばらくして次の電車が長岡方面からやってきました。友だちのA君や他の乗客から人が落ちたという報告を受けたのでしょう。私のところにやってきた車掌の言葉がふるっていました。「今度からデッキに立たないでください」・・・中に入れるくらいなら、雪にまみれて誰がデッキになど立っているものですか。
by sig (2008-08-08 19:05) 

sig

takemoviesさん、こんばんは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-08-08 22:54) 

sig

チョコシナモンさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-08-09 14:17) 

sig

八犬伝さん、こんにちは。ご来館ありがとうございました。
by sig (2008-08-09 16:18) 

いぬ

こんばんは 通学も命懸けだったんですね
僕は何時もバイク通学してた時もあれば
定期代を使ってしまって自転車で通った時も
けど通学は楽しかった 
長岡の冬 定期代使ってしまったら大変ですね
by いぬ (2008-08-09 18:58) 

sig

いぬさん、こんばんは。
冬、定期代使ってしまったら、全く通学できませんね。がんばりやさんなら歩くかもしれませんが、吹雪に巻き込まれる危険が出てきます。

ただ、最近は地球温暖化のおかげ(?)で、降雪は昔に比べてはるかに少なくなりましたので、地元の人でも若い世代がこんな記事を読んだら、誇張と思われるかもしれません。
by sig (2008-08-09 20:04) 

sig

銀猫さん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。時々覗きに来てください。
by sig (2008-08-10 14:22) 

sig

ねこじゃらんさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-08-10 14:23) 

sig

kemmさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-08-14 15:44) 

sig

corradoさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-08-15 09:09) 

sig

Qooさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2008-08-17 16:27) 

sig

kurakichiさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2010-10-05 11:04) 

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